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閑話(4)

 モデルのナオキは「西尚紀」なのか。  廉はびっくりして、思わず再びスマホを立ち上げ、先ほどの横顔のショットを見る。画質が悪い。そして一番最初に保存した、精華コスメティクスの広告を表示する。誘われるようなセクシーで深い、大人の視線にはあまり記憶はないが、廉の脳裏に蘇る尚紀の面影は残っている気がする。髪の色も髪質も、そしてその顔の造形と表情……。  再び、横顔のショットに戻る。  尚紀だ、と思った。素顔に近いから分かりやすい。  なぜこの角度のショットが記憶に触れたのか。ごく自然な表情を押さえたショットであったことに加え、廉は中学時代にこの角度で尚紀を良く見ていたからだ。  廉の横を歩く尚紀の姿。詰襟の制服がぶかぶかで可愛くて、廉が尚紀を見ると、焦ったように視線を逸らしてしまう。  恥ずかしがり屋な後輩だった。  廉のなかで、尚紀の記憶が次々に蘇る。  恥ずかしそうに俯く表情、真剣に物事に取り組んでいる眼差し、廉が呼ぶとこちらを見て煌めく大きな眼。    尚紀はナオキなのか。  廉はスマホの写真フォルダを閉じて、電話帳を呼び出す。高校時代の後輩とは部活を通じて何人かまだ繋がっている。  廉は高校時代、剣道部だった。尚紀は帰宅部だったと思うが、同級生ならば面識はあるだろう。  廉はその中で二歳歳下の尚紀の同級生に電話をかけてみる。  これでこの先に繋がらなければ、どんな手を打てば良いかと廉は考えていた。  廉が電話をしたのは、高校時代の部活の後輩。尚紀と同時期にクラス委員の経験がある、尚紀にとっては同級生のアルファだった。  現在は神奈川県警の警部補だと聞いている。  廉がいきなり電話をしても彼は嫌がることなく、話を聞いてくれた。  彼は尚紀のことを覚えていた。 「西くん……。ええ、覚えています、覚えています」    とはいえ、彼も尚紀の現在の消息は知らないらしい。 「確か、途中で学校に来なくなっちゃったんですよ。オメガだって聞いていたから、番ができたのかなと思って……。正直それっきりですね」  尚紀は高校を中退していたという。廉が卒業するまではそのような話を聞かなかったから、おそらくその後なのだろう。  現在はよく分からないというが、廉が最近見かけるモデルの「ナオキ」は、西尚紀ではないかと投げかけると、律儀に画像を検索してくれたみたいで、「本当だ!」と驚いていた。 「江上先輩! 間違いなく西くんですよ!」  その彼の言葉に廉も確信を強めた。    ナオキは尚紀だと思って間違いはなさそうだと考えた廉は、その後輩に尚紀の実家の連絡先を教えてもらった。彼は廉との通話を終えたあとに、同級生数人に当たってくれたらしい。 「多分、まだこの住所と電話番号で大丈夫だと思います」  翌日、そのようなメッセージと共に連絡先がメッセージアプリで送られてきた。  住所は横浜市青葉区と記されていて、このあたりの富裕層が住む街と思われる。尚紀の父親は裁判官で、母親と兄が弁護士であるというのは、警官の後輩から仕入れた情報だった。  尚紀は、中学時代に尚紀は将来弁護士になりたいと言っていたと思い出す。おそらく家族の影響なのだろうと思った。  何はともあれ、尚紀の実家に連絡を入れてみれば彼の今が分かるかもしれない。  万が一実家に尚紀がいなかったとしても、連絡先くらいは教えてもらえるだろう。  理由は適当に……、中学時代の生徒会で同窓会を開こうといった話が上がっていると話せば問題はないだろう。これまで自分と尚紀の接点はなかったが、あながち嘘でもないのだから。  廉は、後輩から教えてもらった電話番号をタップした。

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