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閑話(5)
尚紀の実家、西家にそのまま電話をかけてみた。応対したのは女性だったので、声色からして母親だろうと思ったのだが、けんもほろろな対応だった。
「あの子が今どこでどう生きてるかなんて知らないわ。番とよろしくやっているんじゃないの!」
廉が名乗って、尚紀の在宅の有無を尋ねると、そんな言葉がスパンと切り返されたのだ。
「え、ちょっと待ってください」
廉が驚いてとっさに口を挟むと、相手は止まった様子。寝耳に水の情報に問い返す。
「今、番って言いました?」
そう問いかけると、相手の母親と思われる女性は、あら、知らないの、と忌々しげな口調。
「あの子はね、ヤクザの番よ」
今頃何をしてるかなんて知らないわよ、と言い捨てて、通話を切られてしまった。
衝撃の情報に、廉は呆然としてしまい、しばらくスマホを持ったまま動けずにいたが、我に返って再び同じ番号に電話をかけた。しかし、すでに着信拒否の設定をされたのか、繋がることはなかった。
着信拒否されたことも衝撃なのだが、いろいろ驚きがありすぎて、頭がついてこない。
ちょっと待て。
廉は何度か瞬きを繰り返して、頭の中を整理しようとするが、混乱していてどうにもならない。
落ち着け。
さっき、尚紀の母親が言っていたことは本当なのか。
番がいる? それがヤクザ?
本当なのだろうか。
いや、嘘だろう。だって、あの広告を見て、自分の番だと本能で判断したのだ。誰かの番であるオメガをそんなふうに思うなんて……。
そもそも先ほど話したのは、本当に尚紀の母親なのか。
でも、あの子と言っていたのだから、おそらく母親だろう。とはいえ、あの突き放したような言い方はないよなと思う。
どこでどう生きているかなんて知らない。
身内であるはずなのに、あまりに冷たい言葉で言葉を失った。
だけど、その言葉で尚紀は実家を出ていて、交流はほぼないということはわかった。あの母親との間にも間違いなくない。そこは安心した。
問題は番の存在だ。念のために自分の目で確認したい。
そう思って自分のスマホのなかに保存している尚紀の画像を確認したが、項に付いた傷までを確認できる鮮明なものはなかった。
曲がりなりにも母親ではあるので、尚紀に番がいるのかどうかは知ってるだろう。しかし、事実を話されたのかは疑わしいと思っている。現に廉は尚紀を自分の番と思っているのだから、咄嗟に出た嘘である可能性はある。確証はないけれども。
どの情報を信じたら良いだろう。
今判断できる材料はなくて、冷静に考えると自分で調べるしかなさそうだ。廉はスマホの電話帳を開く。
芸能関係に強い知り合いはいたかな……。
廉はお目当ての名前を探り当てて、電話番号が未だに生きていることを願ってタップした。
相手は大学時代のバイト仲間。今は、芸能関係のライターをしていると聞いている。今のナオキの状況を知っていれば……難しければその先に繋がれば、と思って連絡をしてみることにした。
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