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閑話(6)
廉は大学時代、今しかできない仕事をしてみたいと、少々他人には言えない特殊なバイトをしていたことがある。
今の廉の上司で親友の潤は、大学卒業後に跡取りとして森生メディカルに入社することが決まっていた。そのため、大学の単位を早々に取得して、経験を積み見聞を広げるためという理由で別業界で長期インターンとして社会に出ていた。
もう一人の親友である、潤の双子の兄である颯真は、同じアルファで彼は自身の第二の性が判明してすぐに最短で社会に出ることを決意した。高校は飛び級で一年で修了し、国内でも難関の医大に入学。そこでも飛び級を使い二十歳で医師免許を取得した。廉がのんびりと大学に入った時にはすでに大学五年生で、しっかり将来を見据えていた。
そんな二人に触発されて、大学時代は仕事に明け暮れた。廉は、社会人になったら経験することが難しいであろう際どい仕事をしてみたかった。
大学卒業後は、潤と同じく森生メディカルに入社することを決めていた。そこで、潤を支えながら彼と共に高みを目指していくのが、社会人としての自分の使命になると、その頃から考えていた。自分のために潤のために、ある程度自力で深いところまで探れる調査力やリサーチ力が欲しかった。
そこで廉はコンサルティング会社や調査会社などの職を経て、アングラな人脈を辿る情報屋の仕事にたどり着いた。二十歳前後の頃だ。先ほど連絡したのはそこで知り合った仲間だった。
「あれ、廉? 本当に? 超久しぶりだね」
その人物は国立大学に通う優秀なベータだったが、この界隈の水が合ってしまった様子で、卒業後に一般企業に就職することはなかったらしい。今も情報を拾っては記事を書いて雑誌社に売るといった仕事をしているという。肩書きは、ジャーナリストだったか、ライターだったか。調査報道を得意としていた。
久しぶりに連絡したにもかかわらず、彼は好意的で、事情を話すと、いろいろと調べてくれることを約束した。もちろん報酬は弾んだ。
「ふーん、モデルのナオキね」
あまり噂は聞かないよね、と彼は言う。
項に跡があるから番がいるらしいが、相手が誰なのかは伝わってこないという。
「自分も気になっているから、少し調べてみるよ」
そう請け負ってくれたのだった。
彼には彼なりの人脈があるため、廉の依頼はおそらくその分野に詳しい人物まで辿り着いてくれるだろう。
その友人からの連絡を待つ間。
週末になって、廉のスマホは意外な人物からの連絡を受けることになった。
尚紀の父親、という人物からの連絡だった。
江上さんの携帯電話で良いか、という確認を丁寧に入れてきた相手は、自分のことを「西」と名乗り、続いて尚紀の父親であると身分を明かした。
「先日、自宅にご連絡をいただいたという話を聞きました」
その人物はそう切り出した。
「先日は、妻が大変失礼をいたしました」
尚紀の父親は、廉に対してそのように謝罪をした。
「身内の恥を晒すようですが、妻は血が繋がらない息子である尚紀をどうしても受け入れられないのです。ご容赦ください」
そこで廉は尚紀が西家の実子ではないことを初めて知った。
尚紀の父親は横浜地裁に勤めていると聞いていたが、現在は弁護士として都内の弁護士事務所に勤めているとのこと。
「妻に聞いても要領を得なかったので直接ご連絡しました」
尚紀の母親に比べて父親は、冷静で丁寧な対応だった。
「あなたは尚紀の何を、お知りになりたいのでしょうか」
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