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閑話(9)
「ナオキの連絡先までは辿り着かなかったけど、事務所ならツテが見つかった」
友人からそのような連絡が入ったのは、週末のこと。ナオキというモデルを探し始めて、そろそろ一週間が経とうという頃だった。
芸能関係に顔が広い知人を当たってくれて、ようやく辿り着いたという話。
ナオキが所属しているモデル事務所は「オフィスニュー」。元モデルのやり手女性社長が経営している中堅規模のモデル事務所とのこと。現在数十人のモデルが所属しているが、ナオキの人気が出てから、急激に増えたとのことだ。
急激に規模が大きくなるとセキュリティがガバガバになるものだが、ここはかなり厳重に管理されているらしい。
「伝をたどったら、オフィスニューの野上社長と懇意にしている人物に辿り着いた」
ナオキの連絡先はなかなか掴めないので、こちらから攻めるという方法はあると言われて、廉はそれに飛びついた。
ナオキにダイレクトに繋がればそれが最善だったが、廉の目的は尚紀と再会し気軽に連絡を取りあえる関係になるというだけではない。最終的には番契約を結ぶつもりだ。最初は気にならなくてもいずれは事務所の存在を無視できなくなる。最初から筋を通しておくのも良いと考えた。
伝手を辿るのにかなりの出費を必要としたらしいが、そんなものは大した話ではない。
実の父親というルートが途絶えた今、ナオキに繋がる細い糸はこれしかないのだ。
実は廉は他にも人脈を辿り、精華コスメティクスや広告代理店などからのルートも当たってみたが、芳しい成果は届いてない。
尚紀本人に辿り着かない中、これが一筋の希望に思えた。
廉の意向を得てこれから事務所の社長にわたりをつけをつけるとのこと。少し待てと言われて、全面的に協力してくれる友人に廉は感謝する。
「報酬は弾めよ」
そう言われて、いくらでも払うと答えた。
通話を終了して、ふと思いたちそのままメッセージアプリを立ち上げて、トーク画面へ。電話してもいいか、と短くメッセージを送ると、相手からいいよ、と即レス。
廉はそのまま通話ボタンをタップした。
呼び出し音が流れてすぐに、もしもしと相手が応答する。
「忙しいところ悪い」
廉がそう謝ると、相手は今職場を出たところだからちょうど良かったと応じた。時刻は土曜日の午後十一時である。
「あいかわらず忙しそうだなあ」
そう呟くと、通話に応じた親友、森生颯真は苦笑した。
「御社の社長ほどじゃない」
俺の可愛い弟を馬車馬のように働かせるなよ、と釘を刺された。
颯真の弟は、廉の上司である潤。二人は二卵性双生児だ。
颯真にそう責められるのは仕方がないのだが、こればかりは諦めてもらうしかなさそうで。
「それは仕方がないだろう。年内は目が回るほどに忙しいと思う。社長に就任したばかりだから挨拶回りとか面倒事も多い」
年が明けてしばらくすれば落ち着くだろうと話した。颯真がオーバーワーク気味の潤を心配するのは今に始まった事ではない。
「それより、教えてほしいことがある」
ほう。なんだ、と颯真が問いかけてくる。
「お前の専門分野だよ。俺は素人でわからない。
番と死別したオメガって、番契約が切れるっていうじゃん。それって項の跡が消えるってことだよな。どのくらいで消えるものなの?」
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