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閑話(14)
野上が提示した三つの条件に、廉はとっさに枷を嵌められたと思った。なぜ、そこまでとは思ったが、まずは尚紀に直接会うことを優先したい。
短く頷いた。
「わかりました」
それじゃあ、調整して連絡するわ、と言って、野上は立ち上がる。廉も立ち上がって、彼女を見送った。
廉は改めてソファーに身を埋める。
緊張が解けて、脱力。思わず天井を見上げた。
すごい迫力……オーラだったなと思う。
所属モデルを守るためだろう、彼女のガードは硬いし、隙を見せない。「オフィスニューは硬い」という廉の友人の言葉を思い出す。あの社長が率いているのだから、当然だろうなと思った。
逆に考えれば、彼女の庇護下に尚紀がいるということは、余計な人間は近づけないという安心材料にはなる。しばらくは尚紀の背景について調べるのは止めておいたほうがいいだろうなと廉は考えた。あの社長だと、安易に動けばバレてしまいそうだ。
尚紀と直接会えるチャンスを得られたのは大きい。
これまで尚紀は自分のことを覚えていると、わけもなく確信があったが、彼から反応を引き出せなければ終わりと聞いて、実は緊張している。
自分は尚紀にとって中学時代の一時期、生徒会というある意味特殊な関係があっただけだ。自分が尚紀のことを覚えていたからといって、彼もそうであるとは限らない。
自分の番は尚紀であるという確証が廉にはあるが、今の尚紀にその確証が伝わるかというとわからない。賭けだ。他のアルファの番ならば、廉のフェロモンも分からないだろう。思い出だけが頼りだが、自分はどれだけ彼の記憶に残っているか。
昔を思い起こすと、今は後悔しかない。
なぜ、尚紀に積極的に関われなかったのか、と悔しさがある。同じ場所に通い、学校生活を送っていたのに。
なぜ今のように直感的に彼を番と判断できなかったのか。
尚紀と出会った頃は、自分は中三でアルファだと分かったばかりだったし、中学入学したての尚紀もまだオメガという自覚はなかった。
だけど、高校に進んでからは、めっきり交流はなくなってしまったが、お互い同じ校内、敷地内で学生生活を送っていたのだから、香りに気づいても良さそうなものに。
そう恨みがましく思ってしまうのだが、それはすべて自分の責任だ。
高校生で番うアルファとオメガはたくさんいる。同じ学校にいながら、自分の番に気が付かなかったなんて……。
自分自身に呆れ果てる。
廉はため息を吐いた。
あの頃は、意識的にオメガを避けていた。
構えることなく付き合えていたオメガは、身内以外では親友の潤くらいのものであった。
番の存在をキャッチする本能というアンテナを鈍らせていたのは、そんな自分自身の意識だと、廉は考えていた。
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