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閑話(18)
「混乱していたわねえ」
野上はそう廉に言った。
その夜、廉は野上に連絡をしてみると、彼女はあっさりとそのような感想を伝えてきた。
「ナオキはナオキで混乱して、苦しんでいるみたいね」
あなたみたいな人が出てきしてまったから、とどこか楽しそうにいう。尚紀のことは心配しているのだろうが、高みの見物をされているような感じもしている。ただ、それはそれで、彼女から自分が尚紀に関わることを許されたと感じて、廉の中では安堵できる事実だった。
「とりあえず、連絡を待ちたいと思います」
「本当に来ると思っているの?」
そう楽しげに問われてしまう。試すような口調で、廉も思わず苦笑を漏らす。
「来ると思いますよ。彼は義理堅い性格です。そのあたりは変わっていないんじゃないかな」
「あら、よく知っているのね」
「なにせ中学時代からの付き合いですから」
正確には中学時代の半年間しか付き合っていなかったが……。よくそんなことを自信を持って言えるなと自嘲的にも考えるが、この人物には尚紀との気持ちの距離が近いことを示しておかねばという気持ちが働いた。
「どうして、尚紀はあなたという番がいながら、他のアルファの番となったのかしら」
昼間の野上から向けられた問いかけが、じわりじわりと毒となって廉の中に侵食している。
野上の何気ない疑問は、高校生にもなって大事な番の存在に気づけなかった自分への不甲斐なさと、尚紀との番の絆の弱さを指摘された気がした。すでに尚紀は廉を番として見ていなかったから、他のアルファの手を取ったのではないかと……。
これまで考えたことはなかったが、ぐさりと刺さるものがあった。
鈍かった自分への自嘲と嫌悪。そして今は、はっきり自覚する、亡き夏木真也への深くて激しい嫉妬……。
「いずれにしろ、尚紀とのことは健闘を祈るわ。そうそう、あなたと連絡先を交換したと庄司から報告を受けたわ」
廉は別れ際の姿を思い浮かべる。
「尚紀の体調が気になったので、身近に連絡を取れたらいいと思いまして」
「体調ね……」
尚紀は、あの精華コスメティクスの広告を見続けてきた自分からすると、ずいぶんやつれた印象だった。何があったのか気になる。少しでも身辺を探りたくて庄司と連絡先を交換した。
「まあいいわ。とりあえず、尚紀の動きを待ちましょ」
そうして通話を終えたのだった。
廉は自宅のソファに腰掛ける。
今日はクリスマスイブ。さすがにこれから連絡は来ないだろう。明日か明後日か……。
気持ちの整理をしていたら、もう少しかかるだろうか。
本当なら、年内に会いたい。
尚紀から連絡が来れば、仕事を放り出してでも会いにいく。
もう一度、尚紀と会ってきちんと確認したい。本能が求める番であると。
いや、尚紀との番の絆は強いし、彼だってそれは分かっているはず。だけど、今日の尚紀の反応は、廉にとって寂しいものだった。尚紀と二人きりで会って、彼は自分の番……いや、自分のものであるという確信を得たかった。
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