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閑話(23)

 スマホの向こうの尚紀が思わず詰まったのがわかった。廉も思わず自嘲の笑みを浮かべた。 「ね、俺は優しくはないよ。君の辛い状況に付け入るつもりだからね」  これは、尚紀に対しての宣言だった。  それでも、一つ一つの出会いを大切に、彼と思い出を作っていきたいと思うが、押すときには押す、と廉は割り切った。 「そんなこと……」  尚紀の躊躇いをよそに話を進める。 「じゃあ、年明けすぐはどうだろう。十年以上ぶりだ。ゆっくり話したいし、何よりもう一度会いたい」  今度ははっきりと言った。尚紀は明らかに困惑している。 「そんな……。だって僕にはもう番は居て……」 「死別しているんだろう?」 「……項に跡も残ったままなんです」  しかし、廉は、尚紀の決定的な一言を一蹴する。 「それがどうした? 関係ないだろ」  尚紀が口噤んだ。嫌な空気だと思った。廉とてこんなふうに一蹴したいわけではないけど……。少し言い繕う。 「俺は、尚紀と一度会って、いろいろ話したいだけだよ」  さらに、言い添える。 「そうだな、もし尚紀が俺の顔をもう二度と見たいくないくらい大嫌いだというのであれば……、ショックだけど、これ以上嫌われたくないし、大人しく引き下がることにする」  しまったかな、と廉は思う。電話でのやりとりということもあって、この時点でかなり強引で嫌がられても仕方がない。  しかし、尚紀はそんな、と言葉を呟いて沈黙した。だけど、強引な展開を心から嫌がっている感じでもなくて、わずかに安堵する。 「そこまで嫌われてなさそうで良かったよ。とって食べるわけじゃない。ちょっと散歩に付き合うくらいの気軽さで会ってくれると嬉しいな」  尚紀は少し考えた様子。 「……ならば、一度だけ……」  その言葉を待っていた。とたんに嬉しくなって浮かれた。尚紀はどこに行きたいのだろう。水族館もいいし、美術館や映画……。いやあまり話す時間がないだろうか。ならば、普通に食事やお茶でも。  日程もとんとんと決まった。年末年始休暇が終わる前に一度会っておきたくて。三が日が明けた四日に。  本当は、大晦日の今日でも元旦の明日でもいいくらいなのだが、尚紀には家族と過ごしてほしいと明るく牽制された。少しがっついてしまったのがバレたらしい。それでもあと、四回寝れば尚紀と会えると考えて引き下がる。完全にはしゃいでいる。 「でも、君と年越しをしたいという本音を忘れないでほしい」  来年はぜひ一緒に年越しをしたい。  しかし、年があけて一月三日。いよいよ明日、という日になって、突如尚紀からメッセージアプリに連絡が入った。  明日の予定をキャンセルしてほしいとのこと。  その理由は、「風邪を引いたので」。    廉はすぐに大丈夫? と体調を心配する返信を打ったがいくら待っても既読がつかない。  焦りと心配が募る。  しばらく返信を待ってから、意を決してアプリ経由で通話を試みたが繋がらず、尚紀への連絡は断たれていた。

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