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閑話(24)

「風邪をひいたので」  その一言で連絡を断った尚紀を、廉は心配していた。  いや、正直に言えば本当に風邪なのだろうか、と、まず疑った。    本音は会うのが嫌だったのではないか、心変わりしたものの断りきれないから……などとネガティブな考えがまず浮かんだのだ。しかし尚紀はそういう人ではないと思い直す。自分の誘い方があまりに強引だったから、そんなふうに思ってしまうのであって。  とはいえ、本当に風邪であったとしても、連絡を断つ必要があるだろうかと思う。  いろいろ考えた結果、自分とは連絡を断ったとしても、仕事のマネージャーにその対応はしないだろうと踏んで、先日連絡先を手に入れた彼のマネージャーの庄司に、電話をしてみることにした。  翌日、庄司は案外簡単に連絡が取れた。  あらかじめ野上からの言葉添えもあったのだろうか、廉に対してハードルが低いように思えた。  廉が尚紀と今日会う約束だったのだが、体調不良でキャンセルされたので、心配になって連絡を試みているのだが、彼からアクションがなく、とても心配していると、素直に話した。  すると尚紀の体調不良を庄司も承知している様子。嘘ではなかったのだと廉は内心で大きく安堵する。そうなると、心配は尚紀の体調に移るわけだが……。  庄司の答えはどこか曖昧だった。廉が詳しいことを聞こうすると、望むようなストレートな返事をもらえない。  たとえば、熱はあるのか、食欲はあるのか、リアルタイムで連絡は取れるのか、病院には行ったのか。  廉が心配して矢継ぎ早に質問するも、庄司からはろくな返事がなかった。 「尚紀も落ち着いたら病院に行くと思うので」  廉は思う。連絡を断たれなければ、自分が連れて行ったのに……。  そう考えて、廉は思わず思考が停止した。  尚紀の体調不良は、本当に風邪が原因だろうかと思ったのだ。  庄司は詳細を話してくれないが、それでも連絡をとっている様子。自分だけが連絡を絶たれた理由に思い当たった。 「……もしかして、尚紀は発情期ですか」  廉がそう質問すると、庄司はわかりやすいほどに動揺した。肯定も否定もされなかったが、それで廉は全てを察する。  尚紀には前の番の噛み跡が項に残っている。その影響下での発情期なのだ。 「番がいないオメガの発情期は辛いと聞きます。心配です」  廉の呟きに、庄司は少し落ち着いてきたので大丈夫、と初めてきちんと答えてくれた。 「それに、これが初めてではないので……」  それは衝撃的な一言。 「尚紀にはずっと発情期があると?」  だから、あんなにやつれていたのか? と廉は初めて知る。 「いえ。それまではずっとなかったのだけど、先月初めて……」 「病院には?」 「……いえ。本人も躊躇っていて」 「だけど、あのやつれ方は心配ですよね。医者には診せたほうがいい」  廉は躊躇いなくそう言った。脳裏には颯真の姿があった。 「私が専門医を知っているので」  廉がそう言うと、慌てたように庄司が言葉を重ねた。 「ちょっと待ってください。  尚紀はあなたに知られたくなくて、連絡をしてこなかったんですよね。彼を抜きにその話を進めるのはあまりに勝手ではありませんか」

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