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閑話(25)

 廉は我に返る。もっともな言葉だ。 「先走りました……。すみません」  あまりに尚紀を心配しすぎて、彼の意志抜きであれこれと考えてしまっていた。それを庄司に嗜められた。  冷静に考えれば、今の自分は発情期に入った尚紀に、なにも言われずに連絡を断たれる程度の関係性なのだ。 「江上さんが心配してらっしゃるのはわかりました」  廉が落ち込んでいるのが庄司にも伝わったのだろうか。気遣うような言葉。 「あの、専門医をご存知と?」  今は難しいですが、いずれは必要になる話ですし、尚紀にも折を見て勧めたいと庄司は言う。本当に彼女は尚紀を心配しているのだろう。廉はええ、と頷いた。 「実は私の親友が、アルファ・オメガ科の医師で、番を亡くしても項に跡が残ったオメガの治療に熱心なのです」  そういうと、庄司は一言、わかりました、と言った。 「本人も今は自分の体調に戸惑っているのだと思います。江上さんにお話できないのもそういう理由だと。なので、折を見て、わたしから受診を勧めてみますね。それで話がついたら、またお知らせします」  それまでは尚紀への他言は無用ですと、口止めをされる。  廉は頷いた。 「わかりました。その時までわたしは何も言いません。ただ、心配なので、ときおり様子をうかがっても大丈夫ですか」  廉の言葉に庄司はもちろんですと頷いて通話を終了した。    廉は通話を終了させ、そのまま今度はメッセージアプリを立ち上げる。まだ実家にいるのであろう親友に、通話は大丈夫かとメッセージを送る。  すると、向こうから電話がきた。 「なにかあったのか?」  颯真のシンプルな問いかけに、廉は挨拶もせずに早速本題に入る。 「ちょっと聞きたい。あのさ、今、誠心医大横浜病院のアルファ・オメガ科に初診で予約を入れるとしたら、どのくらい待つ?」  その突然の質問に、颯真は面食らったようで、あーどのくらいだろうと反応を見せるも、少し考えている様子。 「……あのさ、それお前の話じゃないよな」  そんな反応をされて、廉は初めて何を心配されていたのか察した。 「あ、違う! 悪い。俺じゃないよ!」  そう否定すると、颯真は安堵した様子。お前じゃなくて良かったよ。今日会ったのになにか不調でもあったのかと驚いた、と言われた。 「俺じゃないんだけど……」  どう説明しようか廉は少し迷い、言葉が途切れた。 「それって、この間お前が聞いてきた話と関係ある?」  それは廉が番を亡くしたオメガの噛み跡がどのくらいで消えるのか、と質問してきたことを言っているのだろうと思った。察しのいい親友に助けられている。 「うん。大いに関係ある。その続きの話なんだ。  もしかしたら……いや、いずれお前に診てほしい人がいて。それで聞いてる」  そう颯真に話しながら、廉はいずれ尚紀を颯真に診せることになるだろうなと気持ちを新たにする。  颯真は、わかったと頷いた。 「初診はそんなに予約を取りにくくはないと思うな。初診用の時間を作っているから。言ってくれれば俺が取る」  颯真が動いてくれるならば安心だ。廉はようやく落ち着いた。 「……助かる。ありがとう」 「いずれって話だけど、いつくらいになりそうなんだ?」  その質問には廉も確かなことをは言えない。 「分からない。本人にも機会をみて話すから」  自分はまだ尚紀から信頼を得られていない立場だし、繊細な話題でもあるから、きちんと話したい。 「俺は、専門医に診せた方がいいとは思ってるんだ。託すならお前だ。だけど、デリケートな話だから」  颯真は頷いた。状況は分かったから連絡を待ってる、とシンプルに告げられて、通話は終了した。

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