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閑話(28)
そう、尚紀を独占したいので、他人に尚紀の可愛いところを見せるつもりはない。少し休もうと人気のないベンチに誘った。ここで少しお喋りでもすれば、人波も落ち着くに違いない。
「はしゃいでしまってすみません……。僕こういう場所に来るの久しぶりで……」
尚紀はそんなふうに言い繕った。
しかし廉は笑みを浮かべる。
「久しぶりならば新鮮だよね。俺からすると可愛い尚紀を見られて眼福だった」
うっかり可愛いと言ってしまったと、口にしてから気がつく。普段はこのようなミスはほとんどしないのに、本音がダダ漏れになっている。
少し落ち着け、と自分を諌める。
尚紀の反応が少し微妙でもあり、廉は先走ったかなと思う。
聞けば尚紀はこのような場所に来ること自体が久しぶりとのこと。小学校の社会科見学で行ったマリンタワーが最後という話だから、本当に久々なのだろう。
尚紀が西家に引き取られてからの対応を見れば、家族と来ることはないだろうと容易に想像はできた。番は……尚紀が好きな場所に連れて行ってくれることはしなかったのだろうかとは思うが、立場的に難しかったのかもしれない。
とはいえ、廉とて自発的に来る機会はない。今回は、発情期明けで体調が万全ではない尚紀を連れ回すのに相応しい場所を考えただけだった。
それでも、どんな場所であっても尚紀と一緒にいられるだけで幸せだ。
「江上先輩は、こういう素敵な場所をたくさん知っていそうです」
その言葉に廉も嬉しくなる。そもそも、廉が尚紀に会いたくて無理矢理付き合わせたようなものだから、そんなふうに言ってくれて嬉しい。
廉もさほど「素敵な場所」を知っているわけではないが、尚紀が付き合ってくれるというのであれば懸命に探すし、なにより尚紀と同じものを見て、感情と思い出を共有したい。
「尚紀は喜んでくれそうだからな。これからは一緒に行こう」
そう廉が言うと、尚紀が少し驚いた表情を見せた。廉は畳み掛ける。
「尚紀と一緒でなければ、意味がないよ。付き合ってくれる?」
廉の前のめりの誘いに、尚紀は少し考えて、視線を外して頷いた。
「……予定が合えば。また誘ってください」
無理矢理頷かせてしまったが、尚紀の横顔が少し嬉しそうな感じもしていた。
希望を持ちたいと、廉は思った。
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すごく今更なお知らせなのですが、本作10章7〜8話あたりのお話を廉視点で描いています。
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