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閑話(32)
庄司によると、尚紀の発情期の頻度は番を失ってから頻繁で、本人も参っているらしい。
聞けば、先月から二回……、今回で三回目とのこと。
「私は詳しくないのですが、少し頻繁すぎるのではないかと……」
一般的にオメガの発情期は三ヶ月に一度、と言われている。庄司の言う通り、尚紀の発情期の頻度は高い。
「予後」と颯真が言った、番を失い項に跡が残ってしまったオメガの話が脳内をチラつく。いやいや、尚紀はそこまで悪化はしていないと即座に否定して、少し落ち着いて考えてみる。
アルファである廉は、発情期というものがどのくらいの身体的精神的負担になるのか実感がないが、周りのオメガを考えると、かなりの負担というのは想像がつく。
潤などは仕事のパフォーマンスに影響するからと発情期は完全に抑えているものの、やはり周期が近くなると体調に異変があるみたいで、顔が熱っていたり、少し怠そうだったりする。部下にも番がいないオメガがいるが、やはり発情期前後は辛そうだし、発情期になれば休暇を取る。
あんな体調不良に予告なしに何度も襲われるとなると、気持ちも体力も落ちて仕事をしている場合ではないだろう。
「病院には……?」
何度も聞いていることをやはり聞くしかない。
「……本人もかなり参っているようで、発情期が明けたら行くとは言っています」
それならば、少しは安心だ。
きっと一度病院にかかって抑制剤を処方してもらえれば、身体は楽になる。専門医に診てもらおうと話すきっかけはできるだろう。
その後、しばらくして尚紀から連絡が入った。
「しばらくご連絡できずにすみません」
そう謝った尚紀に、廉は仕事が忙しかったかな、と助け舟を出す。すると、尚紀も「少し詰めた撮影があったんです」と答えた。
本当のことを話してもらえない寂しさはあるが、それは自分が気持ちを押し付けているにすぎない。いつか彼がきちんと話してくれる日が来るまで、自分は外堀を整えつつ待つ決意だ。
廉は「大変だったね、お疲れ様」と答えた。
その後、庄司から尚紀が病院に行ったものの、長く待たされて大して話はおろか、診てもらえずに薬だけ渡されたらしいという話を聞いた。
「本人が少し懲りてしまったみたいです」
そうだろうなと廉は思う。勇気を出して行ったのに、話も聞いてもらえずなにも解決しなかったのでは、もういいやとなる気持ちはわかる。いよいよ颯真に渡りをつけるタイミングかもしれないと廉は考える。
すでに友人の医師には尚紀のことを話していていて、初診を繋げる準備ができているという話をすると、庄司は以前よりも前向きだった。
尚紀は今かろうじて体調を整え仕事をしているという。それがいつできなくなるかと考えると心配にもなろう。
ならば、その受診で懲りてしまった尚紀をどう説得するのか、そんな話を庄司とし始めた頃、二人して心配していたことが起こった。
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尚紀の視点は、10章13〜14話あたりでお読み頂けます。
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