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閑話(34)
とりあえずリスケの交渉が必要なので、と庄司は一旦連絡を切る。
廉はそのまま通信アプリを立ち上げ、メッセージを一件打つ。そして、部屋の窓を大きく開け放ち、布団を干して、洗濯をして、室内の掃除を始めた。
尚紀の過去か……。
手を動かしながらも廉は考える。
室内をあらかた片付けた後に買い物にも行っておこうと思い立つ。そこでスマホが着信を告げた。
「急用?」
「忙しいところ悪い。仕事中だろ」
土曜日は出勤日であることが多い颯真に、廉はそう言った。
すると、少しひと段落したとのことで、連絡をくれたらしい。時間があったら連絡が欲しいとメッセージを入れていたのだ。
「今職場なら都合がいい。
この間の話、本格的に進めたい。初診の予約を取りたいんだ」
廉の依頼に、颯真はちょっと待ってと言って目の前の端末を操作している様子。
「早い方がいいのか?」
「できれば。今朝になって本人が体力が尽きて動けなくなってるそうだ」
颯真が少し考えている様子。
「この間の話からすると……、番を失って項に跡が残ったオメガが、発情期で困ってる……そんな感じか?」
「さすが、話が早い」
廉がいう前に、颯真がすべてを察してくれている。彼は端末を操作しているようで、こう言った。
「出た。最短なら明後日だ」
初診患者に限定した予約は月曜日という。
「じゃあそれで押さえて欲しい」
「わかった。名前は?」
「西尚紀」
にし……と、颯真が復唱して、しばし止まった。
「にしなおき……?」
記憶に引っかかるらしい。
「それって……」
「中学校の頃の後輩だ」
廉の言葉に颯真もそうだよな、と合点する。
「中学の生徒会の時、ちっちゃくて、ハキハキしていて廉にくっ付いていた子だ」
颯真の印象が昔の尚紀を思い起こさせる。
「よく覚えていたな」
「今思い出したよ。その西さん……お前の大事な人、と思っていいのか?」
颯真の問いかけに、廉も頷く。
「俺が選んだ番だ。いずれは形はどうあれ一緒になりたい」
颯真は、そうかと頷いて、少し考える。
「あれ、もしかしてずっと付き合ってたとか?」
まさか偶然中学時代の同級生と会うことは想定しないだろう。だが、廉も違う違う違うと三回否定した。勘が良い親友にバレずに付き合い続ける腹芸など、廉にはできない。
「再会したんだ、この年末に……」
「再会かよ! どこで?」
颯真の追求。廉にさほど変化がなかったので、本気で驚いている様子だ。電話越しだが、テンションが上がっているのがわかる。
「どこでと言われると……」
正確なところは広告看板を見て、居所を割り出し押しかけた、と言える。
そう廉が答えると、颯真はへえ、と驚いた様子。
「お前の情熱がすごい!」
と。その言葉は褒め言葉なのか、そうではないのか、苦笑が漏れる。
「でも、番に対しててそんなもんだろ」
廉の言葉に、颯真も言えているなと頷いた。
「それもすごい巡り合わせだ。奇跡みたいだな」
颯真は心から喜んでくれる。なんて優しい親友だろうと廉は思う。彼の重くて辛い恋は未だにゴールが見えないのに。
しかし、颯真は自分のことのように喜んで、「嬉しい」と言ってくれたのだ。
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