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閑話(35)
「で、どこまでいったんだ」
颯真の追及はまるで中学生みたいで、廉は微笑ましくなる。思えば、彼はずっと実の双子の弟を自分の唯一無二の番だと、性に目覚めた頃から確信していた。初恋は実弟だったという。
対して廉も、そんな颯真に自分の恋愛の悩みを話すことは少なかった。いや、廉自身は恋愛で悩むことがあまりなかった。恋愛への執着は少なかったから。だから、これまで自然と二人の間で交わす会話にそのような話題は多くはなかったのだ。
「どこまでなんて、いってないよ。
猛然と押しかけて、ようやく会ってくれるようになった程度だ。……やっぱり亡くした番のことは忘れられないんだろうな」
そうかと、颯真は頷く。
「項に跡が残ると身体がしんどいことも多いし、亡くした番に気持ちも引っ張られてしまうからな。辛いなら、少し医療の面からそれをサポートできたらいいんだが……」
その呟きに、廉は食いつく。
「お前に頼みたいのはまずそこだ。尚紀の辛さに寄り添ってやってほしいんだ」
「……そんなに辛いのか」
「気持ちも落ちてると思う。この間、身体がしんどいからとアルファ・オメガ科を受診したらしいんだけど、たいした話を聞いてもらえなくて懲りてしまったらしい」
颯真は頷くような反応を見せた。
「……そうか、辛かっただろうな。きっと手に余ると思われてしまったんだろうな」
そんなことないのになぁ、と漏れ出る言葉は悔しそう。きっと彼なら尚紀の辛さに向き合ってくれると確信する。
「わかった。そのあたりを踏まえて話を聞いてみよう」
「頼んだよ」
やっぱり尚紀は颯真に託すのが最善だと廉は思った。
「そうかぁ、お前に番ができるんだな」
颯真がしみじみと噛み締めている。
「まだ気持ちは伝えてないよ」
「お互いに本能ではわかってるんだろ? 時間の問題だ」
颯真が即答する。
「俺に協力できることがあったらなんでも言って欲しい」
そんなふうに言ってくれる親友。
「ありがとう。俺はお前がそうやって祝福してくれるだけで嬉しいよ」
廉の言葉に、颯真が拗らせているからなあと苦笑を浮かべた様子。ただ、廉の本気の思いは、颯真の本音を引き出した。
「正直に言うとさ、お前がちゃんと本能が定める相手を見つけたことは本当に喜ばしい。嬉しいことだ。だけど……少し羨ましいな」
廉は頷いた。
羨ましいという言葉を颯真が口にした。颯真はそのようなことは絶対に言わない性格だけど、本音だと廉にも分かる。
しかし、その漏れ出た複雑な気持ちは、不思議と穏やかな口調だ。
俺はゴールが見えないからな、とスマホの向こうで苦笑する彼の顔が見える。
はやく、潤がこの親友の恋心に気づいてくれないだろうか、廉も痛切に思った。
颯真の通話を終わらせて、再びメッセージアプリを立ち上げる。
そのまま庄司にメッセージを送った。
「友人に初診の予約を取りました。月曜日の午後、誠心医科大学横浜病院の森生颯真医師です。腕が立つ専門医なのでご安心ください」
そして、こう打った。
「尚紀を説得しましょう」
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