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閑話(41)

 それから数日間は穏やかな日々が過ぎた。  尚紀の体調は少しずつ回復して、動けるようになり、それは廉にとっても嬉しいことで。一緒に住み始めたて数日後、尚紀は廉のために夕食を作ってくれた。 「なに、このごちそう!」  廉は嬉しくて舞い上がってしまう。食卓に乗っていたのは、たっぷりの春キャベツとベーコンを使ったオイルベースの香ばしい香りが立つパスタと、野菜とシーフードのトマトスープ。 「冷蔵庫の中にあったものを勝手に使わせていただきました」  尚紀が申し訳なさそうに言った。  いや、食材だって冷蔵庫にいるよりも尚紀に使ってもらった方が本望だろうし、なにしろ食材を無駄にしないのはいいことだ。そんなことを真剣に語ってしまいたくなるくらい、嬉しくて舞い上がっていた。  実際に尚紀が作ってくれたパスタとスープは美味しかった。 「よかったです! でも明日もお仕事なのでニンニクは少し控えめにしておきました」  しかし、鷹の爪のピリ辛感とニンニクの風味が際立ち、春キャベツの甘さとベーコンの塩加減が絶妙で、とても美味しい。  さすが、数年間仕事と家事を両立していただけある。そのようについ思ってしまう手際の良さと腕前だった。  いや、そんなことを考えてしまうのは良くないと廉は気を引き締める。これは絶対に漏らせない話なのだから。  先日の誠心医科大学横浜病院にて、尚紀の診察を待つ間、野上と電話で交わした話が、脳裏に蘇る。 「柊一さんは、尚紀と長く暮らしていたオメガの男性よ。詳しい年齢は知らないけれども、四十代半ばかしら。二人は、同じアルファの番だったのよ」  柊一とはどんな人物なのか。廉が知りたかった疑問を野上はいともあっさりと明かした。  同じアルファの番?  驚いた廉がその言葉をなかなか咀嚼できずにいると、野上はさらに驚くべき事実を口にした。 「尚紀の番であった夏木真也には、彼を含め三人の番がいたらしいわ」  廉は、言葉を失った。  野上によると、もう一人の番には会ったことがないが、その存在は尚紀と夏木の二人から……とくに尚紀から頻繁に話を聞いていたという。微妙な関係性ながらも、三人で楽しく暮らしている話を度々聞いたという。  一体、番を三人も持つアルファというのはどのような神経の持ち主なのか。廉にはさっぱり理解できなかった。  とはいえ、そのような人物が尚紀の番だったというのが、事実なのだ。 「夏木との付き合いは割と長いけれど、よく分からない男だったわ。  どういう経緯があって、尚紀が彼の番になったのか、残念ながら私は知らない」  尚紀と出会った時には、すでに彼は夏木の番であったという。  詳しいことは、後日直接会ってから話すわ、と野上には話を切り上げられてしまった。  廉が知り得たのは、尚紀と柊一、そして夏木との関係性、さらに尚紀はモデルの仕事をしながら柊一を支えていたという過去……。  あまりに衝撃的な話で、驚きが多すぎて混乱している。何に一番驚いているのかよく分からず感覚が麻痺しかけている自覚があったが、廉はそれらを、すべて宣言通りにそのまま腹に収め自分から取り出すことはなかった。

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