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閑話(47)
颯真がバラの花束を贈れとアドバイスをしてきたことに、廉はとても驚いた。自分の柄ではない気がする。
「それ、キザじゃないか?」
廉の心配に、キザ? と颯真は鼻で笑った。
「お前の人生における最大の勝負所だろ。全然キザなんかじゃない。っていうか、相手に愛を伝えるんだから、そのくらい格好をつけろ」
彼は絶対に引かないから大丈夫、安心して告白しろと颯真は自信満々に言った。なんなら指輪も用意しろと言い出す始末。
廉は嘆息した。
「さすがに今日明日では指輪は無理だ」
「……そっか。そうだよな、彼の希望もあるだろうしなぁ」
「でも、バラの花束にしろって指定は理由があるのか?」
ふと気になって聞いてみる。
すると、颯真が「ブルーローズの花言葉を知っているか?」と聞いてきた。
あいにく花には詳しくはないが、ブルーローズ……青いバラが自然界には存在しないということくらいは知っていた。いつだったか、テレビか雑誌かで知った気がする。
「そう。だからブルーローズの花言葉はもともとは『不可能』とされていた。存在しない花の花言葉があるなんて、やっぱり特別な存在なんだろうな。でも、今は『奇跡』になっている。数多の品種改良でも成し得なかった奇跡が、今は遺伝子操作による品種改良で可能になったから、らしい」
「そうなんだ」
そう反応しつつ、奇跡という言葉に廉も惹かれた。まさに、尚紀との再会からここまでの道のりは奇跡であったように思うから。
「二人の再会は奇跡みたいなものだ」
颯真もそう言った。
「ぴったりだよ。いつか潤と気持ちが繋がったら、ブルーローズの花束でプロポーズしたいと思ってたけど、それはお前に譲るよ」
颯真の胸に秘めていたその計画に、廉は驚く。長年付き合っていてもこんな一面があるのかと驚くような発想だが、きっと颯真にとって、それくらい遠くて、憧れなのだろうと思う。
「いいのか、そんなドラマチックな秘策を俺に与えて」
廉の問いかけに、颯真はどうぞ、と答えた。
「俺はいつになるか分からないからな」
颯真は少し苦笑ぎみの言葉を残した。
そんな会話をした翌々日。尚紀から待望の連絡が入った。
「発情期が終わりました。明日の午後退院だそうです」
昼休みにサンドイッチをつまみながら事務処理をしていたところ、そんな連絡が入り、廉は歓喜の勢いで立ち上がり、ガッツポーズをする。
「よしっ!」
「……室長?」
オフィスに残っていた部下に驚かれて一斉に注目を浴びてしまった。
「あ……失礼」
廉はとりあえず静かにチェアに座り直す。
廉はそのまま作業を中断して、オンラインで明日の午後の休暇届を提出した。
「明日、迎えに行く」
夏木真也という亡き番に対して遠慮をするつもりは、廉にはもう微塵もなかった。
完全に攻めの姿勢に変わっていた。
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