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閑話(49)

 タクシーは渋滞にハマることなく横浜から中目黒まで駆け抜け、ほどなくしてマンションの前に到着した。まず尚紀を降車させて、支払いを済ませて廉も降り、彼が抱えていた荷物をそのまま引き受けて、部屋に向かうように促す。  荷物を取られて尚紀が驚いた表情を浮かべているので、ちょっと強引だったか。廉は、自分がいる時には遠慮なく頼ればいい、と言い繕った。  廉はそのまま尚紀を部屋に連れ込んだ。尚紀は何か言いたげな様子だったが、それでも素直に付いてきてくれる。その素直さは尚紀の魅力の一つだが、見せるのは自分だけにしてほしいと心から思う。 「おかえり」  玄関扉を大きく開いて、廉は尚紀を迎え入れるようにそう言う。  尚紀はすこし困惑が混ざった表情を浮かべてから、ただいま、です、と言った。  尚紀を招き入れてからの廉の対応は早かった。コートを脱がせて、そのままリビングのソファに横になってもらう。一週間、病院にいたのだから体力が落ちている中での移動だったから、疲れているだろう。そう言って、少し休みなさい、と尚紀をソファに埋めてしまった。  本当は部屋のベッドの方がいいのだが、現段階でそこまでやると、嫌がられるような気がした。  一方、自分はというと、尚紀の荷物の荷解きをしてから、タイミングを見てマンションのエントランスまで降り、宅配ボックスの中身を回収する。オーダー通りの華やかでクールな仕上がりの花束で、思わず笑みがこぼれた。  颯真から教えてもらったブルーローズの花束に、廉はこだわった。我ながらロマンチストだとは思うが、やはりその花言葉が廉の心を捉えて離さなかったのだ。ぜひ尚紀にも教えたかった。  もちろん季節柄、駅前の花屋で気軽に売っているわけではなかったので、それなりの店で手配することになった。本来、生花のブーケは手渡しが基本であり、宅配ボックスには入れられないと相当に渋い顔をされたのだが、事情を正直に話してすぐに引き取ることを条件に対応してもらったにのだ。  受け取りのメールをその場でショップに送る。  三輪のブルーローズを眺めて、廉はしみじみと呟いた。 「尚紀と再会できたのは、どう考えても奇跡だよなぁ……」

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