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閑話(50)

 廉が自宅に戻り、書斎に花を置いてリビングにいくと、尚紀が少し困った表情を浮かべていた。廉を動かして自分が休んでいることにすっかり恐縮している様子。そんなことを気にする必要はないのだが、それが尚紀なのだ。作業がひと段落して、尚紀の足元に座り込んだ廉を、彼は労ってくれた。 「お疲れ様でした。なにからなにまで、ありがとうございます」  尚紀の労いに、廉はわずかな罪悪感を抱く。自分としてはこれは外堀を埋める作業であって、尚紀の意向を無視しているからだ。ここまできて、さすがにこれから帰るとは言い出さないだろうというところまで、尚紀を強引にこの部屋に落ち着けてしまった自覚はある。 「ちょっと強引だったかな」  廉の苦笑に、尚紀は顔を上げる。 「え」 「尚紀がそろそろ自分の部屋に帰るっていい出しそうな気がして、勢いでここまで連れ込んでしまった」  尚紀のピュアな目を向けられると、思わず白状したくなってしまう。廉は自分の本音を明かした。 「廉さんには、そんな風に見えたんですね」  確かに、廉には尚紀がそわそわしているように見えていた。 「尚紀からすれば、俺の家よりも住み慣れた自分の部屋の方が、ゆっくり休めるとは思うんだけどね……」  廉はそう言って頭を掻いた。颯真には丸こめ言われたが、正直にいえば強引な説得も丸め込むのも、尚紀相手ではうまくいかない。 「いつ出ていきますって言われるかなって。俺としては、ここでもゆっくりできるよって言いたくてさ」  そう本音を漏らすと、尚紀は眉尻を下げた。本気で困っている様子。 「そんな……」  だけど、廉が出て行って欲しくないと思っていることは伝わっているようだった。 「僕も、いつまでもここでご厄介になるわけにはいかないなって、思っていて。動けるようになるまで、という約束でしたから……」  尚紀の言葉に廉は頷く。 「そういう話だった」  とはいえ、そのように期限を区切ったのだって尚紀がすぐに出て行ってしまいそうだったから。あの時は遠慮なく頼って欲しくてそのように言ったのに。 「廉さんのお部屋は、僕にとって居心地が良くて……。ついついこのまま居たくなってしまいます」  それはついつい本音と信じてしまいたくなりそうな言葉で……いや、例えお世辞でも嬉しい。  もう夏木真也という元番を気にする必要はない。  だから。  であるならば。  廉は愛しているから一緒に住もうという一言を、今まさに口に出そうとしていた。  廉が口を開きかけて尚紀を見る。すると彼は驚くほど尚紀が澄んだ色の瞳を、廉に向けていた。 「廉さん。廉さんのことが好きです。僕は再会できて本当に幸せで……」

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