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13章(5)

「西さん、荷物届いたので、こちらに置いておきますね」  尚紀が特別室に入院したその日の夜。担当のナースが尚紀のバッグを持ってやってきた。 「江上さんが持ってきてくれたましたよ」  そう言ってナースが特別室に設置されているソファーに置いてくれた。あのあと、すぐに発情期の波がやってきて、尚紀は颯真によって確定診断がつけられて、特別室に入ってしまったため、病院まで必要な物を届けてくれた廉に直接会って礼を言うことはできなかった。 「……ありがとうございます……」  颯真の見立て通りだった。あのまま帰っていたら帰宅直後にまた戻ることになっていたと思うし、下手したら発情期とは気がついてもそのまま動けなくなっていたかもしれない。  自覚もなかった兆候を、診察室に入って一発で見抜いた颯真先生はやっぱりすごいなあと尚紀は思った。  ソファにポツンと置かれたバッグを尚紀は見つめる。  廉さん……。  廉にメッセージを送らねばと思う。スマホを起動して、メッセージアプリで廉にメッセージを送る。 「荷物を受け取りました。疲れているのにごめんなさい」  謝るなと、廉は言ってくれるのだと思うけど、今の尚紀には謝罪の言葉しか浮かばない。  連絡を受けて、廉はおそらく驚いただろう。前回の発情期からたった一ヶ月だ。サイクルが安定するまで試行錯誤が続くとは聞いているだろうが、普通に考えてそんなに早いスパンでやってくるものではない。 「桜、見に行けなくて残念です」  さらりと書いたけど、本当は涙が出るくらい悲しい。悔しい。  メンタルも不安定なのか、涙腺が崩壊してしまい、はらはらと涙を落としながら尚紀は送信ボタンをタップした。  すると廉から返信がすぐにきた。それだけでも嬉しいのに。  返信内容は「気にしていない」でも「謝らないで」でもなくて。  心強い一言。 「待ってるから大丈夫」  そして、さらに続いた。 「バッグの中を見て。  尚紀の入院生活の僅かながらでも支えになりますように」  尚紀はベッドから這い出て、ソファの上に置かれたバッグを開いて見る。  律儀な彼の性格が垣間見えるように、きちんと必要不可欠なものが整理整頓して入れられていた。  いつ見られたのかと思うほどに、尚紀が入院中に必要とするものがきちんと、しかも不足がないようにわずかに多めの数量で収められているのだ。  それ以上に驚いたのが、バッグの中に入っていた未開封のペットボトル。赤いロゴは有名な紅茶ブランドのものだ。 「あ……ミルクティ……?」  思わず声に出して呟いた。尚紀は未開封のそのペットボトルを取り出す。 「終わったら迎えに行く。連絡待ってる」  そんな手書きのメッセージが貼られていた。  尚紀が初めて知った味。ミルクティの味わいが好きだと、今度一緒に美味しい紅茶専門店に行こうと誘われて喜んだことを覚えていて、これを選んで入れてくれたのだろう。  退院後の嬉しい予定が支えになると。  そんな気遣いと優しいメッセージが、不安と孤独な中ではとても嬉しくて。尚紀はそれを抱える。 「僕は……頑張って、廉さんの元に帰りますから……」  待っててくださいね……。

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