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14章「それから。僕には、得るものと失うものとがありました」(1)

「ナオキ〜! 復帰おめでとう。待っていたわ」  そう言って迎え入れられたスタジオ。  四月半ば。退院から二週間が経ち、尚紀はようやく颯真のドクターストップが解除されて、仕事に復帰することができた。  彼がフェロモンをきっちり管理してくれるというので、スケジュールをみながら少しずつ仕事を再開したのだ。    復帰第一弾は、年明けに動けなくなってしまいリスケをした雑誌の撮影。  ヴォイスというデビューを飾った雑誌で、モデルのナオキにとって故郷のような存在だ。  彼らはこの雑誌から出たナオキを応援してくれているし、またナオキが掲載された号は毎回話題になるため、節目のタイミングでオファーをもらうことが多い。  前回は創刊十周年の記念だったが、あいにく参加が見送られた。 「前回は大変申し訳ありませんでした。ご迷惑をおかけしました」  尚紀がそのように謝罪すると、撮影に同席する編集長は苦笑した。 「尚紀がNGになって、あの時はちょっと青くなったけど、大丈夫。野上社長に逆に借りを作れたし、結果的に問題はなかったわ」  確かに野上から、ナオキ以上に話題になる代役として、最近売り出し中の若手をねじ込んだという話を聞いていた。  自分は四ヶ月もの間、使い物にならなかったのだから、会社に損失を与えてしまったのだ。それを改めて思う。なのにまた使ってくれるというのだ。全力を尽くそうと改めて思う。 「ナオキ〜! 本当に復帰したのね。嬉しいわ!」  そう言って突然抱擁したのは、ヴォイスのグラビア担当編集者。 「大橋さん、ご迷惑をおかけしました」 「また一緒い仕事ができるのはうれしいわ」  復帰第一弾の仕事は、和やかに進んだ。  しかし、四ヶ月に及ぶ休業の代償は小さくはなかった。  ナオキはこの休業で、現在乗りに乗っていた精華コスメティクスの男性ヘアケアシリーズ、シオンのプロモーションモデルを降板することになった。  ナオキサイドからの降板の打診と、ニュースには書かれたが、クライアントから事実上のノーを突きつけられた形。飛ぶ鳥を落とす勢いの人気商品のプロモーションの要を、いつ復帰できるかわからないモデルに託すことをメーカー側が耐えきれなかったのだ。  当然そのような舞台裏を明かすことはできない。健康面の不安からの休養だったので、健康的な男性が相応しい本ブランドのコンセプトに適わなくなったと、ナオキサイドからの辞退を申し出た形とした。  ここはナオキ側が泥を被り譲ったことにより、契約関係の不履行をカバーしてもらう形で落ち着いた。 「健康を害した自分の責任です」  尚紀はそう思ったし、野上や庄司にも申し訳なくて謝った。  正直、廉との縁を繋いでてくれたシオンシリーズの仕事を失うのは精神的にもダメージで、仕事を再開する上でのとっかかりを失うので辛いが仕方がない。 「挽回できるよう、これまで以上に精進します」  尚紀はそう野上の前で頭を下げた。  シオンシリーズは新年度に入る前にモデルオーデションを行い、新しいイメージモデルが決まったらしいという話を、尚紀も聞いたのだった。

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