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14章(4)★
颯真が探り当てた緊急抑制剤は、発情期になりかけの尚紀の身体にうまく作用した。発情抑制効果はかなり高い薬剤だが副作用も強く、その中でも強めに出た副作用が「悪夢」だった。
颯真の説明によると、効果が高く切れ味が鋭い薬剤ではあるが、少し古い薬なので、副作用の発現も高めなのが難点らしい。本来なら少しずつ投与して効果と副作用を見ていくらしいのだが、尚紀の場合は効果が得られにくいから、最初から最大用量でいくと言われた。
当直の医師の確定診断を受けて、特別室に入院してすぐに抑制剤が投与された。本格的な症状が出始める前に抑えてしまおうという判断のようだった。
そのため、尚紀は入院初日から副作用に悩まされることになったのだ。
ふわりと、番の香りを感じるのが番が出てくる夢が始まる合図……。
タバコの香りが混じった、記憶に残る香り。彼の気配。
「よう、尚紀」
久しぶりだな、とその声を感じた。
夏木、と尚紀も振り返る。
すると番は尚紀の背後にいて抱きしめられた。気づけば全裸を番の目に晒しており、ぐっと繊細なフロント部分を握り込まれた。しっくりとした香りを纏った手に感じやすく弱い場所を握られて、思わず腰が揺れる。
畏怖と緊張が入り混じる。だけど、気持ち良くて懐かしい。
夢だと分かっているのに、抗えない。
身体が、夏木の香りを喜んでいる。
「お前は本当に具合がいいよな」
タバコくさい声が聞こえた。
気がつくと、彼の顔が目の前にあり、尚紀は両脚を大きく掲げられて、その奥深くに彼自身を受け留めていた。
「あっ……」
腰が揺れる快感を得て、尚紀は戸惑う。
気持ちがいいなぁ、と尚紀を見下ろして夏木の口元が緩んだ。
「そんなこと……!」
尚紀が首を横に振るが、すべてわかっているといった様子で目を細めた。人が悪そうな笑みを浮かべて、尚紀を見下ろす。
「あるだろ。お前の中が俺を締め付ける。離れたくないって言ってるぞ」
聞きたくもない。尚紀は頭を左右に振って否定の気持ちを示す。気持ちは逃げたいのに、身体が喜んでいるのは事実で。
そこに、番の絆を感じるのだ。
快楽を求める身体の裏切りに、尚紀はやるせない感情が込み上げてきた。
「……ちがう……」
「何が違うんだ。お前は俺の番であって、お前は俺に発情している。お前のここはヨガって俺を離してくれないぞ」
搾り取られそうだ……と彼は恍惚とした表情を浮かべる。
もう終わりにしたい……。
絶望的な気分で空を仰ぐ。
「ダメだ」
番は尚紀を追い立てる。腰を使って煽り、突かれて引かれて、激しい抽送にアルファとオメガの結合部から体液も漏れ出る。気持ちがいいだろう、番もうっとりとした表情を見せる。尚紀も震えた。声も漏れる。
「お前とは本当に身体の相性だな」
そんな言葉は聞きたくないのに。
追い上げられて、尚紀のフロント部分もぐずぐずになっている。長い指でいじられて弱いところを扱かれて、尚紀はたまらず天を向いて弾ける。それに刺激されて、番が胎内で吐精した。
発情期の番の交わりを正気で受け止める辛さに、尚紀は悲鳴を上げた。
「あああぁぁぁ!」
「尚紀!」
はっと目が覚める。視界は光で潤んで見えない。
思わず掴んだのは誰かの温かい手。はあはあと尚紀は肩で呼吸を繰り返した。
「かなりうなされているな」
意識が明確に戻ってきて、尚紀は瞬きを繰り返す。ほろりと涙が溢れ、世界が開けた。手を握っていたのは、目の前の安心できる相手だった。
「……そうま、せんせ……?」
「ああ、分かるか?」
「はい……」
尚紀は颯真の胸に思わずもたれ、安堵の呼吸を繰り返した。ここは現実、ここが現実と尚紀は自分の立ち位置を確かめる。だけど、さっきの夢は。
「つらい。こわい……」
颯真の心臓の音が聞こえるような気がして、それが尚紀の心を落ち着かせてくれた。
「はぁ……」
何度も颯真の手の感触を確かめて、深呼吸を繰り返したのだった。
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