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14章(10)
「森生メディカルの社長って……この人だったんだ」
尚紀は改めて、凛々しい潤の表情を見つめる。紙面に触れる。そんなことをしても実物に触れられるわけではないのに。
今となっては遠い高校時代のこと。
強烈に思い出すのは廉の卒業式。踏み出せず切ない気分で見送った廉の隣を歩いていたのは、この人だった。
すらりとしていて背筋が綺麗だった人……。たしか弓道部の部長だった。
廉はずっとこの人と歩いてきたのだと、尚紀は唐突に理解した。
そうか、「森生メディカル」の森生って、この森生なんだと繋がった。
……颯真と同じ「森生」。
さらに尚紀は驚く。
記事をさらうように読み進めていて、今度は目が飛び出るほどに驚いた。
「えぇ? オメガなの?」
だって、弓道部の部長だよ? 廉と颯真と一緒にいた人だよ? 会社の社長だよ?
そんな人が、オメガなの?
尚紀はあんぐりと口を開けて思わず読み込んでしまった。
ずっと、それこそ学生時代から無自覚にアルファだと思い込んでいたから驚いていた。
なのに、記事にはこのようなことが書いてあったのだ。
「これからはオメガも積極的に採用していきたいと考えています。これは私がオメガだから、ということではなく、アルファ・オメガ領域を中心に展開している我が社にとって有益であるためです。彼らの知見は、我が社に大きなアドバンテージをもたらすと考えています……」
だって、高校時代は卓越したリーダーシップで弓道部を県大会まで連れていったって有名で。成績もトップクラスだった。だから、廉の隣にいるのだと思っていた。
そうじゃなかったんだ……。
そういえば、廉は親類の会社にいると、以前話していたから……。もともとそのような一族なのだろう……。
それにしたって……。
「オメガでも、社長になれるんだぁ……」
それが尚紀にとって一番の驚きだった。
森生メディカルは、オメガの社長が率いる会社……。
そんな会社で廉は働いているのだ。そして、この人をサポートするのが廉の仕事なのだと改めて思った。
森生潤先輩はオメガ、と尚紀は改めて振り返る。
高校時代に勉強を挫折した自分とは比較にもならない。本当にすごい。
廉や颯真というアルファが近くに居ながら、社長まで上り詰めた人。
そこにはどんな努力や苦労があったのだろう。
自分とは全く違う世界で生きてきたけれど、絶対にアルファ、ベータを交えた厳しい生存競争を勝ち抜いてきた人なのだ。
オメガでも頑張ればそこまでいける、とは思わない。それくらい厳しいことだろう。
尚紀はこれまでそんなことを考えたことは全くなかった。努力をすればとか、究極的にはそうだろうが、誰でも容易く成し遂げられるものではないのは、弁護士になりたいと、幼い頃に真面目に勉学に取り組んで、そして挫折したからわかる。
「すごい……」
思わず口をつく、素直な賛辞が止まらない。
尊敬しかない!
すごい、かっこいい。
この人が颯真先生の弟さん、廉さんの上司。
颯真先生の弟さんはそんな素晴らしい人なんだと尚紀は思った。
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