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15章「少しずつ。気持ちだけでなく距離も……」(1)
精華コスメディクスのシオンシリーズのイメージキャラクターの仕事を降板して以来、ナオキは大きな仕事に関わることを控えていた。
シオンシリーズでは体調不調という痛恨の理由で続けられなくなり、降板せざるを得なくなった。通年にわたるプロジェクトは体調が整わない今は関わるべきでないと判断した。
モデルという仕事は、一般的には男性の方が、女性よりも息は長いといわれるものの、それでもいつまでもできるわけではない。あえて仕事をセーブするという空白期間は、貴重なキャリアの積み上げを無駄にしているのかもしれないが、野上や庄司も承知してくれた。
そのような理由で、現在は活躍の場を主にネットに戻し、単発の細々とした仕事を精力的にこなしている。
しかし、そんな環境が変わったのは、復帰してしばらくして。初夏の頃だった。
「ちょっと! なにこれ、すごいことになっているわ」
あの野上が驚いて、尚紀に連絡を入れてくるほど。
一夜にして、「ナオキ」が世界に拡散された。
きっかけは、初夏のフェアに合わせて解禁されたプロモーション。ナオキがスーツとサングラスをコーディネートしたイメージ動画が拡散されたことだった。
ナオキの姿が拡散されたのは、大手アイウェアブランドの広告だった。モデルやインフルエンサーなど数人のモデルがブランドイメージやフェアに合わせて製品の魅力をアピールするという、よくあるプロモーションの一つ。ナオキはそのモデルの一人に起用されていた。
担当したのは夏の必需品のサングラスで、ビジネスシーンでもコーディネートできるサングラスというコンセプトで、スーツに合わせた姿が、外見のキャラクター性とハマってしまい、密かに話題を攫っていた。
シオンのプロモーションをしていたモデルがこんなところでも話題になっていると、ネットで噂になっていたのだが……。
そこに燃料を注いだのが意外な人物で、海外セレブの一人。
お忍び日本旅行で偶然目にした尚紀のプロモーション広告が気に入り、ナオキが担当したサングラスをSNSにアップしたことで、大騒ぎになった。
そのセレブの手には、商品とともにナオキのプロモーションショットも。
それをきっかけにネットに火がついてしまった。 SNSの拡散威力は凄まじく、その情報の広がり方は驚異的。すぐさま地球を一周する勢いで情報が広まり、ネット上は話題でいっぱいになった。
「え、これはシオンで有名になったナオキでは……」
「最近見かけないと思っていたら、こんなところでやっていたんだね」
「すごい素敵だよね!これから買いに行ってくるわ」
「やっぱり目立つ人って目立っちゃうんだね……」
そのように話題を席巻し、尚紀はその数日で時の人になってしまった。
そんな話題を見逃すメーカーでもない。すぐさま反応し、尚紀のサイネージ動画のメイキングなどを公式サイトでも相次いで公開し、その自然体の姿が魅力的で大きな広がりをみせた。
いわば、数多ある商品の中の一コーディネート例から、トレンドのアイコンに押し上げられたといえそうだった。
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