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15章(5)★

 尚紀は愛おしい人の名を呼ぶ。目を瞑り、その人がしてくれるであろう手つきで、病衣を脱ぎ払った。 「尚紀」  廉が耳元で名前を呼んでくれたような気がした。  それだけで、身体の奥の、自分のオメガの部分が高鳴った。それはお腹の奥にずくんと何かが打ち込まれたような感覚。そして、潤んだものが広がっていく。 「んっ……」  思わず背筋が伸びて腰を揺らして息を詰めた。 「廉さん……」  その手つきに促され、尚紀は全裸になる。ビーズクッションに背を預け、脚を広げて潤う場所に躊躇いなく指を這わせる。  それだけで身体がぞくぞくしてしまい、腰が揺れて止まらない。吐息が漏れる。自分の香りがすごい。  どうして自分の香りでこんなに興奮してしまうのかわからないが、潤う場所に指を挿れる。ずっぽりと埋まる感覚に満足を覚えた。  気持ちがいい。  いずれ廉がそうしてくれると想像するだけで、このまま達してしまいそうで……。  廉を想う。  いつも思い浮かべるのはあの背中。手を伸ばす。柔らかい癖毛の後ろ姿。すっきりとした広い背中に手を伸ばす。 「はぁ……ん。廉さん……」  尚紀の呼びかけに廉が振り返り、優しい笑みを浮かべてくれた。  そして呼びかけてくれる。 「尚紀!」  ……寂しくない。 「廉さん……。廉さん」  尚紀は切ない声で呼び続けた。  いくら呼びかけを重ねても、彼はここには来ないけれども、尚紀は廉を想って、名前を呼ぶ。 「れん……さん」 「廉さん……」  この発情期を、頑張って一人で乗り越えれば、いずれは一緒に過ごせる。  今は無理でも、いつか。  それが尚紀の願いであり、将来への望みだ。  尚紀の指は、廉を思い、潤む場所に埋め込まれ、掻き回される。どうしても刺激が欲しい。  潤む視線の先に、好きな人がいる。  彼のしっとりとした肌触り、香り、温もり。五感で彼を感じたいと尚紀は想った。  もし、これを廉の指だと想像したら……。  考えた途端に、尚紀の腰が跳ねた。 「ああん!」  指を自身に埋め込んで、尚紀はそこを掻き回す。 「あ……ん。れん……さん」  重い息が否応なく漏れた。  たまらず、ゆるく屹立する自身に体液にまみれた左手を絡ませると、ぐっと質量を増して、腰が揺れた。 「はぁ……あん!」  彼を想ってきりきりに張り詰めた尚紀の中心から白濁が噴き溢れる。感情が昂り多幸感に包まれて、涙が溢れていた。  廉さん、会いたい……!  尚紀の気持ちが、弾けていた。  身体が脱力する。  ぐったりと尚紀の中心は力を失い、肌によりそった。息が上がり、はあはあと、荒い息遣い。  手には、吐き出した白濁。  現実に舞い戻ってきた。だけど、虚しくはなかった。これまで愛おしい人を想い、自分を慰めた経験はあっただろうか。  あったとしても夏木に番にされる前で、気持ちも身体も幼かった頃のことだ。  こんなふうに恋焦がれる想いを抱いて、達して、満たされるのかと初めて知った。  廉さん、と上がる息を整えつつ尚紀は何度も名を呼ぶ。  愛しています。  今すぐでも会いたい。  今すぐにでも抱かれたい。

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