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15章(8)
次の段階。
主治医の颯真に、退院時の診察で次の目標としてそのように言われ、尚紀は意識ばかりしてしまっている。
気持ちが繋がってすぐに、颯真にはこう言われた。
「治療のゴールは、二人がなんの障壁もなく身体の関係を結べるところ」
番の影響が抑えられた発情期が過ごせるようになって、目指す次の段階は、現状を維持しながら二人で少しずつスキンシップを重ねることだった。
これまで、一緒に手を繋いだり、飛びつくといったようなことは問題なくできていたが、性的な領域となるとどうなるかは分からない。だって、キスさえしたことないのだから。
次ってなんだろう。
そう思ってドキドキしている。
「尚紀」
廉に呼び止められて尚紀は我に帰る。
「え」
もうすぐ着くよ、と廉に言われる。ああ、と尚紀は自分が置かれた立場を思い出した。
車窓はよく見る駅前の風景。数日前に入院するために電車にのった最寄駅の中目黒駅が過ぎ去った。
誠心医科大学病院からの帰り。タクシーで一体なにを考えていたのか、と言われると、とても恥ずかしい。
そう、颯真に言われた「次」ばかりを考えていた。
「次、って身体の関係を結べるところまでね」
颯真はするっとそのように言った。
尚紀は思わず息を止めてしまう。
「落ち着いて」
そう苦笑されて、尚紀は自分が驚いて息を止めていたことに気がついた。
「もうそこなんですか……」
尚紀がそう戸惑うと、颯真はにやっと笑った。
「当然だよ。だって、廉を想ってこの発情期過ごせたんだから」
そうはっきり言われて、思わず身体が固まってしまった。
隣には廉がいるのに……。
すると廉はおもむろに隣の尚紀の手を握って、嬉しそうな笑みをうかべた。
「発情期に俺のことを想ってくれたんだ。嬉しいな」
その素直な反応に、颯真もうなずく。
「だろ。だからこれからの治療はお前も協力しろよ。尚紀だけが頑張る話じゃないからな」
「わかってる」
そう諭されて、颯真から廉へフェロモン治療を受けているオメガとのスキンシップについて、アルファ側の心得……というか注意事項を授けられていた。
尚紀はどこか居た堪れなくて俯いていたが、その間も廉は尚紀との手を繋いだままだった。温かい両手が、尚紀の右手を包んでくれて、幸せな気分に浸る。こんな幸せな気分って来るんだと思う。
尚紀と颯真に呼び止められる。
顔を上げると、颯真が尚紀を見ている。
「は、はい」
優しくて穏やかな主治医の表情が目の前に。
「心配することは何もないから。今のうちに思う存分廉に甘えて、いちゃいちゃしておいで」
そう言われて診察室を送り出されたのだった。
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