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15章(9)
「少しずつだからな。いきなり一気に進めるなよ」
廉はそのように颯真から何度も釘を刺されていた様子。
「難しいことを言うな」
「番のためだ。それくらい自分の欲はコントロールしろ」
颯真の言葉は容赦がないように尚紀には思える。そんなに難しそうなことを要求するのかと思うのだが……。
だが、廉は苦笑している。
「……お前が言うとやっぱり説得力があるな。わかってるよ」
そう同意がなされていた。アルファ同士ではわかり合ってるんだなあと尚紀は改めて思った。
一気に進めるなって、颯真先生は言っていたけど……と尚紀は思う。
廉も男だし、尚紀にだってわかる。いくらアルファといっても一気に走り始めたらとまらないのでは……などと考えて、顔の体温が上がってしまった。
いま、自分は何を考えていたのだろうと我に返ったのだ。
ふと、隣に座る廉の手が視界に入る。
大きくて温かい手。指が長くて、爪は丁寧に切り揃えられていて、清潔感がある。大きく包み込んでくれる手。
あれが、自分に触れてくるのだと思うと……。
思わず身震いして目を閉じた。
まずい、興奮してきたかも……。そう思って、脳内の雑念を散らそうとひたすら努力する。
こんなタクシーの車内で、自分はなんてことを考えているのだろうと思ったりもする……。
こんなところで想像で興奮して……恥ずかしい。自分はそれなりに経験だってあるのに。
そう……いい大人であることは尚紀自身もわかっている。今更、セックスに未経験の時のような膨らむ期待をしているわけではないけれど……、と思いつつ、気がついてしまったのだ。
それなりの経験だってあるし、発情期のたびに番に抱かれていたりしたけど、これまでは相手が好きな人ではなかった。
心がときめくような行為って、どんなものなのだろう。
好きな人とする時の気持ちって、どんなものだろう。
彼の前にすべてを晒すのはとても恥ずかしい。廉はなんて思うんだろう……。
そんな気持ちが期待となって膨らんで、弾けそうなのだ。
「そこの駐車場の前で大丈夫です」
「はい」
尚紀がぼんやりとしていると、廉の手が尚紀の肩に触れる。
「ひゃっ」
思わず驚いて変な声を上げてしまった。
廉が驚いたように尚紀を見た。
「びっくりさせた? ごめんね」
「いえ……」
タクシーは廉が指定した場所に停車する。目の前は彼のマンション。
廉が尚紀の荷物を持って下車し、そのまま手を差し出す。
「さあ、帰ろう」
廉の言葉に尚紀も頷いてその手をとった。
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