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15章(10)
「ただいま、です」
以前は入院して退院するたびに、廉にすぐに横になれと勧められていたが、今回はそのようなことはなかった。
今回の入院は体力を奪われたものではなかったというのが彼にも分かっているのだろうと思う。
尚紀が荷解きをしているうちに、廉はダイニングテーブルに麦茶を用意してくれた。
「少しゆっくりしよう」
向かい合わせで椅子に腰掛け、グラスに注がれた氷入りの冷たい麦茶を一口飲んで、ほうっと吐息を漏らすと、身体に冷たい筋が流れ落ちて、気持ちも頭も少し冷えた。
室内に少し視線を巡らす。
廉の部屋とはいえ、ここはこれまで日常生活を送っていた場所だ。馴染みのあるものに囲まれて「帰ってきた」という実感が湧く。
颯真の言葉に触発されて、性的な期待が膨らみ過ぎていた。生活をする場に戻ってきたことで、頭が冷えてきたようだった。
目の前の廉の姿を改めて眺める。
自分の本能で選んだ人。番になりたい相手なのだ。廉との間の行為も急ぐよりも大切に育みたい。期待してハードルを上げすぎるのも良くないように思う。
少し落ち着いて考えよう。
そう、颯真が言うように少しずつ、スキンシップを重ねていけばいいのだと、すとんと納得できた。
「さっきから考え事ばかりしているけど、大丈夫?」
廉からそう言われて、挙動不審だと思われるくらい期待を膨らませていたことを知る。
少し恥ずかしい……。
「あ、はい。大丈夫です。僕は元気ですよ」
廉は尚紀の前に頬杖をついて笑みを浮かべる。
「そっか、いろいろ期待して頭がいっぱいなのかなって、俺が期待しちゃった」
そう言われて、思わず驚く。そして不安になる。
「え、僕そんな顔をしてました?」
すると廉は驚くことを言う。
「いや、俺がしてた」
「そんなこと。だって廉さん、普通でしたよ?」
「普通とみせかけて、どうしたら尚紀とそういうことに持ち込めるのかなって、ずっと考えてる」
だって、ようやく尚紀に触れられるんだから、と廉が手を伸ばしてきた。その手が、尚紀の指に触れる。
「………」
思わず、息を詰めた。
それはさっきの感触とは全く違っていて。
しっとりとしていて、敏感な尚紀の肌を刺激する。
答えを求めるように視線を上げた。
すると廉は苦笑した様子。
「ごめん。びっくりしたよね」
艶やかな瞳でそのように謝られて、手を引きそうになった廉の手を、今度は尚紀が追いかけ、首を横に振った。
「そんなことないです」
視線が絡み合う。見つめ合う。
ああ、なんて言ったらいいのだろう。
「あの……そういうなら僕もずっとドキドキしていました」
誘導されているように、するすると先ほどの本音が口をつく。どうしたらこのもどかしい気持ちが伝わるのか。
「僕は……廉さんの手が温かくて好きです」
気がつくと、そう言っていた。言葉がついて出た感じ。すると廉は嬉しそうな笑みを浮かべた。
「そう言葉にしてくれると嬉しい」
廉の指が尚紀の手の肌を滑る。指をなぞり、手のひらを重ねて、温かみが伝わってくる。
そして、指を絡ませる。
ふわりと感じる、廉の香り。
「キスしていい?」
そして、手の甲に廉はキスをした。
「尚紀、愛している。人生を共に歩もう。俺たちは番になろう」
廉の誠実な告白だった。
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