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15章(11)
以前、ベータの恋人達のようにカップルとして付き合おうと言われた。それは、尚紀にはすでに番がいたから。番が付けた項に残った噛み跡を消す手立てが当時はまだなかったから。廉は尚紀がいればそれでいい、とまで言ってくれた。
だけど、今は違う。
廉から「番になろう」と言ってもらえるなんて……。
尚紀は胸にこみ上げる感情を懸命に抑えながら俯き、これではいけないと顔を上げた。
真摯な表情の廉が、とても愛おしい。
「はい、僕も愛しています。僕も……、廉さんと番になりたいです」
そう言ってから、視界が急に歪んだ。そしてほろりと、温かいものが落ちる感触。
「あれ……」
潤んで視界が見えない。廉が見えない。
だけど、廉は嬉しそうで苦笑気味の声が聞こえる。
「なんで泣いてるんだよ」
「……わ……わかりま……せん!」
そう尚紀は答えて、首を横に振る。廉の愛情を疑うことなどこれまでなかったのだが、どこかで不安があった。
ペア・ボンド療法という手段を知って、廉と番になれる可能性を知り、尚紀は当然ながら前向きだった。もちろん、廉もそんな尚紀と同じように将来を見据えてくれていたけど……。
本当に番関係を望んでくれているのか、言葉にしてくれていなかった。
廉も番になりたいはず……と当然思っていたけれど、言葉にしてくれるのは安心感が違うのだ。
関係を進めることに前向きなのは、自分だけではない、と。
ベータのカップルのように絆を育もうと言われて、もちろんすごく嬉しかった。だけど、自分はオメガだ。アルファとオメガの切れぬ絆を結びたいと言われることが何よりの幸せ。
「僕は、いますごく幸せです……」
尚紀もそう答えた。廉は笑みを浮かべた。
「嬉しいことを言ってくれるな」
その表情があまりに尚紀の心に刺さり、近づきたくて立ち上がる。テーブルが隔てている距離さえ惜しい。
そんな尚紀の熱情を察したのか、廉も立ち上がった。おいで、と言われて尚紀は躊躇うことなく、廉の胸と腕に包まれた。
「廉さん……」
温かく逞しい廉にもたれて、尚紀は吐息を漏らす。
「尚紀」
そう呼びかけられて顔を上げると、顎に手を添えられた。
「いい?」
そう問われて、尚紀はわずかに頷く。
すると綺麗な顔が近づいてきて、尚紀の唇に廉のものがわずかに触れて、そして離れた。
ふわりとタッチした。
……そんな感じであった。
でも、温かくて柔らかくて。胸がいっぱいになって、息をするのも忘れるくらいに、彼の胸のなかで廉を見つめていた。
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