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16章(3)
ひいらぎたつや。
尚紀は絵本を開き、奥付けを確認する。
著者、柊達也。
これは漢字。ペンネームなのだろうが、自分が知る達也であるに違いないと尚紀は思った。
出版日は今から一年ほど前。
尚紀がタツヤと離別して一年八ヶ月ほどになる。
消息を断たれてから出版された絵本を見て、彼は今絵本を描いているのだと尚紀は理解した。
「そうか、絵本作家になったのかな……」
タツヤ……。
尚紀の中でタツヤとの思い出が蘇る。
出会ったのはもう十年近く前。オレンジ色の髪をした一つ年下の少年だった。人懐っこい性格で、いつも一緒にいた。
ノートの隅にペラペラ漫画を描いては喜んで、尚紀と一緒にカレーを作って、一緒にアイスクリームをシェアした。
あの日々が脳裏に蘇る。
「ねえねえ、ナオキ! シュウさんの誕生日、今週なんだって。知ってたぁ?」
そんなふうに言い出しのは彼だった。
冷え込みが厳しくなり始めた初冬の朝。タツヤにそう言われて、初めてお互いのバースデーを意識した。「誕生日、ケーキ食べたいね〜! 苺が乗ってるケーキとかテンション上がる!」と喜んだのもタツヤだった。
あれが三人の関係の原点であったように思う。最後は、寂しい別離となってしまったけど……。
「ナオキも結局、もうオレを仲間だとは思ってなかったってことなんだ」とそんな言葉一つで、タツヤはいなくなった。
年の瀬が迫る寒い日。タツヤはいなくなっていた。柊一のあの部屋の、彼の部屋はもぬけの殻となっていて、がらんとした寒々しい部屋に変わっていた。
口論の末、タツヤが出ていくきっかけをつくった柊一は、こう言った。
「きっとタツヤにとってはこれでいいと思うんだよ。タツヤは新しい人生をやり直すチャンスがあるのだから」
正論だ。タツヤは新しい一歩を新たに踏み出せる身になったのだから、ここから巣立つべき。
充分にわかっていたけれど、それでも寂しくて。
尚紀は一人で泣いた。
手にした絵本を見ると、表紙の三匹のうさぎは楽しそう。
右の茶色いうさぎは一番小さくて、キラキラとした目をしている。
真ん中の灰色のうさぎは少し身体が大きい。誕生日の主役なのだろう、驚いた表情を見せているが、嬉しそう。
左の白いうさぎは、中ぐらいの大きさでニコニコ笑顔を浮かべている。
話は灰色のうさぎのバースデーらしい。
灰色のうさぎの前に置かれたケーキは、不恰好で、いちごがたくさん乗っている。
「いちごのケーキ!」
不意にタツヤの声が尚紀の脳内に響いた。
あの時のケーキ!
三人で暮らし始めて最初の誕生日、柊一の誕生日に二人で作ったホットケーキを重ねた、いちごたっぷりのケーキそのものが、描かれていた。
尚紀はその場で絵本を開く。
「三びきのどうぶつのたんじょうび」
そのひ、いちばんとしうえのきょうだいのたんじょうびでした。
でも、たんじょうびのケーキはありません。
そこでふたりは、パンケーキをかさねてケーキにしました。そして、しろいくもみたいなクリームをのせました。
いちばんうえには、まっかなあまいいちごをたくさんのせました。
これは、と尚紀は目を見開く。
あの時のサプライズバースデーの話だとピンときた。
シュウさんとタツヤとの大切な思い出。
尚紀はとっさに悟る。
今でも、タツヤにとってあの出来事は大切な思い出に違いない。
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