270 / 270

16章(7)

 誠心医科大学は横浜のみなとみらいにあるため、ギリギリまで楽しんですぐに向かえるように、みなとみらいを散策することにした。考えてみれば、二月にやはり病院の帰りに廉と一緒にこの街を歩き、観覧車に乗って以来かもしれない。  頻繁に通院のために行っているし、なんなら何度も入院しているが、廉と一緒に街を歩くのは久しぶりだった。  あれからベッドでまどろんだり、優しく抱きしめてもらったりしてから、のんびり二人で支度を整えてマンションを出た。電車に乗り、みなとみらいまでは三十分ほど。  地下鉄を降りて、地上に出るとすでに昼近く。ベッドの中が楽しくて朝食を食べ損ねたこともあり、まずは腹ごしらえをすることにした。  近くの店をいくつか見て回り、アメリカンダイナーに入った。廉がハンバーガーやフライドポテトのようなガッツリしたものを食べたいと言ったからだ。  店内はアメリカンロックテイストで、音楽に全く詳しくない尚紀でも聞き覚えがある、元気が出そうなナンバーがBGMで流れている。  席に案内されて、二人で肉肉しいハンバーガーとプライドポテトのプレートに、コーラをオーダーした。 「これから病院だからな、さすがにビールはね」  廉はそう笑った。確かに。 「診察は僕だけですよ。廉さんは颯真先生とのお話だけですから大丈夫じゃないですか」  そうは言ったが、廉は「白衣の颯真の前でビール飲んだ顔は晒せない」と言った。 「ふふ、そうですね」  そう言う二人の関係がどこか微笑ましくて、尚紀は笑った。  サーブされたハンバーガーは結構なボリュームだったが、二人で美味しい美味しいと言い合いながら、あっという間に完食した。  肉汁もたっぷりの、肉肉しいハンバーガーにはコーラが合うよねと二人で頷いたところで、以前、柊一と一緒に同じようにハンバーガーとコーラを楽しんだ思い出が、尚紀の脳裏に蘇ってきた。  一年前の出来事だった……。  遠い昔のことのように思うが、まだ季節は四つしか巡っていない。  ある休みの日に柊一からみなとみらいに行きたいと言われて、二人で出かけた。無邪気だった自分は、柊一に誘われたのが嬉しくて、デートだとはしゃいでいたように思う。二人で一軒家ダイナーのハンバーガーを頬張って、お腹がいっぱいだからと街を散策して、柊一は楽しそうに街を見上げていて……。最後に辿り着いたのは山下公園だった。  不意に記憶に差し込まれたのは、彼の涙。  そこで尚紀は、意識して記憶の蓋を閉じた。 「尚紀?」  気がつけば、廉が優しい眼差しで尚紀を見ている。考え込んでしまったいたようで、少し心配されているみたいだ。 「すみません、なんでもないです」  尚紀はそう謝って、少し歩きたいですね、と廉を誘った。まだ山下公園に行くのは辛いけど、湾岸沿いを歩くのは、気分も晴れそう。 「赤レンガで何かイベントでもやってるかな」 「海沿いは気持ちよさそうですよね」 「また観覧車に乗るか?」  廉の誘いに、尚紀も楽しくなって頷いた。 「今日はお天気も良くて、見晴らしがとてもよさそうです!」  廉は分かりやすくニヤリと笑った。 「やっぱり尚紀は、そういうの好きなんだな」  廉とのそんな些細なやりとりがとても楽しい。

ともだちにシェアしよう!