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16章(12)
番う行為は外部から見られる、という言葉に尚紀は衝撃を受けた。
ようするに、廉との営みをあのカメラで確認されるということだ。特別室で発情期を何度も乗り越えている身としては、辛い時にきちんと颯真がやって来て対応してくれるのは、あのカメラがあるおかげだと理解しているが……。
「尚紀、大丈夫? びっくりしてる?」
隣の廉に気遣われて、見抜かれていて、尚紀は驚いた。
「あ、あの。うん、大丈夫です……」
おそらくその反応がすでに大丈夫ではないと思われたのかもしれない。
颯真がデスクの向こうから身を乗り出した。
「極めてプライベートで、本来であれば誰にも見せたくない部分であることは十分わかってるよ。一生の大切な思い出になる、大事な時間だ。でも、ペア・ボンド療法の治験に参加するのであれば、記録のために必要なことなんだ」
尚紀は顔を上げた。頷く。臨床試験とはそういうものだというのは、素人の尚紀だってわかる。
「もちろん、記録の際には個人情報は消される……というか、治験ではそこはマスキングされるから大丈夫」
名前、顔などはきちんと隠されるし、被験者として記録される。そこに個人の情報は残らない。
尚紀は頷く。大丈夫です、と。その一点でこの治験に参加しないという決断を下すなどあり得ない。ならば自分の中で妥協点を見出すしかない。
自分はいち被験者として記録されると思えば、気持ちのさざめきも多少は宥められる。
尚紀はあえて強めに声を出した。
「颯真先生、大丈夫です。ちょっとびっくりしただけで……。考えてみればその通りですよね」
少し安堵した表情を漏らした颯真に、尚紀は安心させるように笑みを浮かべた。
「尚紀」
「大丈夫です。気にしません」
廉と番になれるのであれば、大丈夫。どこで誰が見ていたとしても、項を噛まれることに躊躇いなどない。今のところ、これしか手段がないのだから。
早く廉に番にしてもらいたい。項を噛んでほしい。
しかしその時、何か、ざらっとした冷たいものが尚紀の感情の表層に触れた気がした。
それはなぜか不快に思えて、尚紀は思わず息を止めた。
そして息を飲む音がわずかに漏れた。
「っ……」
「尚紀?」
隣の廉が覗き込んできた。
「大丈夫?」
どこか心配そうな廉に尚紀は、大丈夫です、と力強く頷き、応えてみせる。
問題はない。
だけど今、自分は何に触れたのだろう。波立つ何かを見た気がしたのだが……。
そこはだめ。
尚紀は寒々しさを感じ、首筋に指をやった。
触り心地として慣れてしまった歪な番の噛み跡が、指先にそっと触れた。
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