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16章(15)
横浜港大さん橋国際客船ターミナルは国内外から多くの大型客船が停泊する横浜の海の玄関口。横浜港に迫り出すかたちで作られており、両脇に二隻の大型クルーズ船が停泊できるような構造になっている。
平日の昼間。快晴ではあるが、今日は客船の停泊予定がないようで、ターミナル内は人もまばらだった。
ライトも落とされて、外の光も限られていて少し静かで寂しい雰囲気。胸が少し締め付けられる感じもしたが、それでもターミナル内で営業するカフェや土産物店は元気に営業中で、それに気分が励まされた。
コツコツと室内を横切り、緩いスロープを上がり展望デッキへ。外に出ると爽やかながらも、少し冷たい海風が頬を撫でる。視界は良好で、目の前に広がるのは、みなとみらいの街並みだ。個性的な高層ビルに赤レンガの街、そして観覧車も青空に映える。
展望デッキからのもう一方は山下公園から横浜ベイブリッジが見渡せるため、ここは絶好のビュースポットだ。
尚紀は、手すりに肘をついて、しばらくみなとみらい側の爽快な風景を眺める。
華やかな街並みの手前に見える海上はのどかで、目の前を遊覧船が横切る。
こんなゆったりとした時間はあまりない。波間に視線を落として、尚紀はしばらく流れを眺めた。
というのも、爽快な風景を目の当たりにしながらも、どうしても胸が高鳴り、緊張していたからだ。何があるというわけではないけれども、それでも、ここにくるとあの雪のクリスマスイブを思い出すのだ。
柊一のことを。
正直、今日ここに来るまで何度も躊躇った。
いや、訪ねなければと思いながら、決断しきれず、とうとう最後のチャンスになってしまったのだ。
明日はもう入院する予定。
もう今日しかないのだと、自分を奮い立たせてここに来た。
横浜ベイブリッジを目にするのに勇気が必要だった。あの雄大な橋の下に眠っているのは、柊一なのだから。
あのクリスマスイブから幾度となくこのみなとみらいの街には来たけれども、どうしても大さん橋とそこから望める横浜ベイブリッジを、視線に入れることができなかった。
その気持ちと向き合うために、今日はここまでやってきたのだ。
数回大きく深呼吸して、コツコツとデッキを歩いて反対側へ。展望デッキは中央部分が丘状になっているので、振り返っても反対側を見渡すことができないのだ。
ぐるりと丘状部分を迂回するように先端をまわり、ようやく見えるのは横浜ベイブリッジ。
美しい巨大な白い橋の下あたりに、柊一を弔った。寒い冬の日に。
あたりには人がいない。尚紀は、デッキに設置されているベンチに腰掛けた。
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