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16章(17)
達也に連絡はしたいんです。
だけど、なんて連絡したらいいか。
尚紀は柊一に語りかけているのか、自問自答しているのか分からなくなってきた。
達也になんて言って連絡をしていいのか分からない。
それが尚紀の本心だった。
本音を言えば、達也が連絡をくれてもいいのではないかと都合のいいことも思っている。
しかし、もしそのように達也が連絡をしてきたとしても、自分は何を話すのだろう、と思ったりするのだ。
もちろん、彼に柊一のことを伝えなければならないとは思っている。だけど、それ以前に、達也が去った夜に誓ったあの決意を、なかったことにはできない。
もう達也のことを忘れないとならない、金輪際彼のことを口にしないと、あの時決めた。
あの気持ちを誰かに話すこともできない。
……あの三人の関係を、うまく言葉にできる気がしないからだ。信頼する廉にも、颯真にも。
あるいは同じオメガである信にならば……と思うが、自分の気持ちを整理したいがために、ステージモデルという戦いの最前線にいる彼を振り回すわけにはいかない。
今は、あの時の三人のかけがえのない時間を、達也が大切だと思っていてくれていることがわかっただけでいい。
そう、これでいい。
達也はもう、別の場所で生きている。
そして、尚紀自身も新たなステージに向かっているのだから。
ねえ、シュウさん。僕も大切な人を見つけました。
尚紀はそう報告する。
廉を思い浮かべる。
今も、隣で未来を見てくれている人です。
僕は廉さんと番になります。
今はまだ、僕の項には夏木の噛み跡が残っていますが、これ、うまくすれば消せるそうです。だから、僕は廉さんの番になることを選びます。
次にここに来る時は、僕は廉さんの番です。
尚紀はベイブリッジをはるか見渡す。
まだ柊一に対して言葉にできない思いはある。
それを、察してほしいとは言えない。
未熟な自分の中で整理がついて、柊一と相対することができた時、ここで柊一と語り合うことができるだろう。
そうすれば、達也を連れてくることも叶うかもしれない。
いつか。
尚紀は秋の空を見上げて、立ち上がった。
すると、海風がひゅーと吹いて巻き上がった。
また、来ます。
シュウさん。
明日から、ペア・ボンド療法に向けて入院するということは、以前から決まっていて、着々と準備を進めていた。これを乗り越えれば廉と番になれるのだから、それが希望であり目標だ。
しかし、ペア・ボンド療法の被験者は一定期間相手との接触を絶たれ、その間にフェロモンをコントロールする必要がある。
それは廉と会えなくなるというハードルであり、それが刻々と近づいてきている実感が、今になって込み上げてきた。
そうだ、明日からしばらく廉と離れることになるのか、と今更ながらに実感して、尚紀の気持ちは大いに落ち込んでしまい、大さん橋から帰宅してから疲れて寝込んでしまった。
「尚紀?」
尚紀はベッドの中にいた。夜帰宅した廉に声をかけられて、布団から少し顔を出す。
帰宅した直後の廉は、ストイックな雰囲気が残っていて、かっこいいなとしみじみ思う。
「おかえりなさい……」
廉は少し驚いた様子で、尚紀の元に寄りひざをつく。
「どうした? 体調悪い?」
そう心配してくれる。尚紀は首を横に振った。
「……大丈夫です」
それでも心配な様子で、尚紀の額に手のひらを当てくる。たまらず布団の中から手を伸ばした。
半身を起こして腰に手を回し、彼の胸に頭を埋めた。
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