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17章「僕は幸せ……であるはずでした」(1)
尚紀と廉は、結局夜中まで互いを思うまま求め合って、気がついた時、尚紀は廉の胸の中だった。最も愛する人の中にすっぽり収まったそこは、温かくて、一番安心できる場所。恥ずかしいほどに乱れまくって気を失ったせいか、パジャマを纏っているがいつ着せてもらったのかまったく記憶にない。
あんなに乱れた自分を、廉は引いたりしなかっただろうかと少し心配になる。それくらい欲望のままに求めてしまった。
わずかに身じろぎすると、無意識なのだろう、眠ったままの廉がぎゅっと尚紀を抱きしめ、脚を絡ませた。ほっとして、少し目頭が熱くなる。
大好き。愛している。
入院する日は廉が病院まで送ると言ってくれたが、尚紀は断った。正真正銘別れる時に泣いてしまいそうな気がしたからだ。心配してくれるのはすごく嬉しいのだけど、離れがたくなってしまいそうで。考えただけで涙ぐんでしまう。
気持ちを整えるために一人で行く決意をした。
大丈夫……、こんなに愛してもらったから。頑張れると尚紀は思う。
でも、あと少し。この人の安心できる香りに包まれていたい……。
そう尚紀が思ってしばらくしたら、隣の人はもういなくなっていた。尚紀が寝返りと打つと、スーツ姿の廉がいた。
「あら起きちゃったか」
眠いだろ、と気遣ってくれる。
「……なんじ、ですか」
まだ六時過ぎだよ、と廉。そうだと寝起きの頭で尚紀は思い出す。明日は早めに出かけるって言っていた気がする。きちんと朝ごはんを二人で食べて、送り出したいと……思っていたのに。
「まだ寝ていていいよ。昨日は無理をさせたし。病院は十一時だろう」
そう、入院の受付時間はそう……。
「尚紀」
そう呼びかけられて、尚紀が顔を向けると、廉がキスをしてくれた。出かける前のキス。
尚紀は観念した。
「……いってらっしゃい」
「大丈夫、一ヶ月なんてすぐだよ」
そう言って廉は、尚紀の首に手を回し、項を撫でてくれた。この人の指が、心地よい。
じゃあね、と廉が手を振って部屋を出ていった。その背中を見送って、尚紀の視界は潤んで、歪んだ。
一ヶ月後なんてすぐ。本当にそうであったらいいのに。また目を瞑って、起きたら一ヶ月後だったらいいのに。
その日の昼、尚紀は誠心医科大学横浜病院のアルファ・オメガ科に入院した。
予定されている期間は一ヶ月半ほど。
次、この病院を退院する時は、廉の番になっているはず。そう思うと待ち遠しくもなる。
入院手続きを終えて、案内された病室は二人部屋だった。同室の人はまだいなくて、実質一人。
二人部屋なので、さほど広くはないが、窓際のベッドだったので日差しは爽やかな印象。少し寂しさを紛らわすことができそうだと尚紀は思った。
荷物を整理して、私服から病衣に着替えてしばらくすると、病室に颯真が来てくれた。
「颯真先生!」
いつものように白衣姿の颯真は頼りがいがあって優しい表情を浮かべている。何度かここには入院していて、顔見知りの看護師もできたが、やはり颯真が顔を見せてくれると尚紀の安堵感は格段に上がるのだ。
「こんにちは。これからよろしくね」
「はい、よろしくお願いします」
尚紀がベッドの上で頭を下げると、早速これからの検査と治療の話をしようかと言われた。
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