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17章(2)
颯真に伴われて尚紀は診察室に入る。
いつものように椅子を勧められて、尚紀はちょこんと腰掛けた。
「顔色は良さそうだね。体調はどう?」
颯真にそう問いかけられて、尚紀は頷いた。
「大丈夫です。僕は元気です」
あれ、もしかして答えになっていないかなと、尚紀は思ったが、颯真はそうかと笑みを浮かべた。
「廉と別れて落ち込んでいないか心配だったけど、良かったよ。早速だけど、これから一ヶ月後に予定されているペア・ボンド療法に向けた事前治療について説明するね」
颯真によると、ペア・ボンド療法の事前治療は三つのステップがあるという。まず最初のステップは治療目標を定める段階。その後、目標に向けてフェロモンを抑えつつ、投薬と評価を繰り返して、最終ステップとなる評価テストをクリアして、初めてペア・ボンド療法が実施可能になるとのこと。
そんなにいろいろな過程を経る必要があるのか、と尚紀は驚く。
「そのファーストステップの検査を今日から始めるね」
「どんな検査なんですか?」
「尚紀の元々の番である夏木氏の香りを特定する検査だね」
意外な言葉に、尚紀は少し驚く。
夏木の香り……?
「僕はあまり記憶がいないのですが、それは可能なんですか」
もともと夏木の香りには執着はなかったし、実際に香りに触れてみて分かるかな、という程度の記憶しかない。薄情だとは思うが、事実そうなのだ。そのことは颯真にも伝えてあるはず……。
「うん。ざっくり言うとそうなんだけど、正確に言うと突き止めるのは正確な夏木氏の香りというわけではなくてね。
分かりやすく説明すると、オメガの人には、『番の香り』に触れると現れる特有の生理反応があるんだ。尚紀にとってのその香りを突き止める検査だ」
颯真によると、オメガは「番とするアルファの香り」を認識すると、心拍数や体温が上がったり、発汗したり脳波にも影響が出たりするという。発情期もその反応の延長線上と考えられているとのこと。「番の香り」を覚えていない尚紀でも、身体は覚えているらしいので「身体が認識する番いの香り」を探すことは可能だという。
「すごい。そんなことができるんですか」
驚きを隠せない尚紀だ。そのためにアルファやオメガの香りを特定したり再現したりする専門職、医療調香師(メディカル・パフューマー)という人たちがいて、今回の検査は彼らの立ち合いのもとに行われるらしい。颯真はアルファやオメガにとって番の香りは大事だから、香りの専門家は必要なんだ、と言った。
しかし、夏木が逝って二年以上が経つ。その間夏木の香りには触れていない。自分の身体は本当に覚えているのかと、不安にもなる。
先程颯真はファーストステップは治療目標の設定だと言った。番の香りとする香りが見つからなければ、次の段階に進むことができないのだろうから。
「大丈夫。彼らは香りのプロだから、きちんと見つけてくれるよ」
颯真は力強くそう言った。
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