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17章(3)
「西尚紀さん、はじめまして。医療調香師の草壁です」
そのように名乗ったのは眼鏡をかけた、尚紀と同年代……いや少し年上かもしれない。三十代前半くらいの、白衣姿の小柄な男性だった。
その日の夕方近く、早速尚紀は最初のステップとなる、夏木の香りの探索検査を受けることになった。専用の検査室に案内され、ほどなく名前を呼ばれた。
室内にはリクライニング可能なベッドが設置してあり、まずそこに腰掛けた。
「はじめまして。よろしくお願いします」
尚紀がそう挨拶をすると、草壁は大丈夫です、リラックスなさってくださいね、と言った。
「はい……」
「少しお待ちくださいね。森生先生もまもなくいらっしゃいますから」
颯真も同席する検査と知り、少し安堵する。
「西さんは……今日は、元の番の香り……レムナント香の探索ですね」
かつての番の香りのことを、専門用語では残り香という意味を指す「レムナント香」というらしい。颯真から詳しい説明を聞いていたので、尚紀は頷く。
「今日受けていただくのは『嗅覚反応プロファイリング』という、レムナント香を生理反応で特定する検査です。
番の香りを覚えていないということなので、ご不安もあると思いますが、身体の負担にならないように進めていきましょう。よろしくお願いします」
草壁がぺこりと頭を下げたので、尚紀も同じようによろしくお願いします、とぺこりと頭を下げた。
医療調香師という職業を尚紀は初めて知ったが、アルファとオメガの香りの専門家という位置付けらしい。聞けば、発情期に使うとされる番の香りのポプリやフレグランス関係なども、彼らが調香しているとのこと。
そこに颯真がノックして入室してきた。
「森生先生もいらっしゃったので始めましょう」
草壁がそう言った。
医療調香師は、アルファとオメガの香りのライブラリーを持っており、その多くのデータの中から尚紀の身体が番と反応する香りを探り当てていくという。
「番はこういう香りだった、と記憶の断片をお持ちの方がわりと多いので、『当たり』をつけて進めることも多いのですが、今回はまずは浅く広く探索を行っていきます。なにか引っかかることがあれば仰ってくださいね」
草壁は失礼しますと断り、検査師と一緒に尚紀の病衣をくつろげ、モニタを装着する。それは胸だけではなくて、頭や手首、指先、足首にも。身体中にいろいろ付けられた。
「ちょっと動きにくくてすみません。脳波や生理反応とかモニタリングさせていただきますね」
負担にならない体勢でいい、というので、ベッドを少しリクライニングして上体を起こして横たわる。
「これからいろいろな香りに触れると思いますが、深く考える必要はありません。多分よくわからなくなっちゃうと思うので、受け流す感じで大丈夫。ただ、なにか引っかかることがあれば遠慮せずに仰ってください」
それがヒントかもしれませんから、と言われる。
草壁から香りが染み込んだシートを渡される。それを尚紀が嗅ぐことで反応がモニタリングされる。被験者自身に記憶がなくても、生理反応は丸見えで逃さないらしい。
検査は粛々と続いた。
あまり記憶にないけれどいい香りや、どこか懐かしさを感じる香りなどにも出会ったが、あまり著しい反応はなかったらしい。
一日目の検査は大きな進展なく終了した。
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