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17章(6)

 プロファイリングが終了したのはそれからしばらくして。レムナント香とする、身体がもっとも反応を示した香りが特定できたとのことで、ようやく香りが流れてくるカニューレとアナルに挿入されたモニター、身体を繋ぐいくつもの長い管から解放された。 「西さん、お疲れ様でした」  草壁に労われるものの、身体中から汗が吹き出していて、少し息苦しい。  身体がうまく言うことをきかなくて、力が入らないのだ。 「ずいぶん、汗かきましたね。寒くないですか」  そう聞かれるものの、辛さから視界が歪んで潤んで何も見えない。  うまく息も吸えていない感じがする。ぜいぜいといやな感じがした。 「森生先生、西さんの様子が」  少し切迫した様子の草壁の声で、周りの様子が少し変化した感じ。すると、ふわりとやさしい空気が尚紀の近くにやってきた。 「尚紀?」  大丈夫? 聞こえたら手を握って。  そう優しい空気の颯真に手を握られて、尚紀は握り返す。だけど、身体がしんどい。 「身体を起こすよ?」  そう言われて仰向けにされるが、尚紀はうまく動けない。  いろいろ診られた感じがしたが、意識は虚ろ、ただこの辛さに耐えるしかなかった。    自分の記憶にない香りを、身体の反応を頼りに探られるというのがこれほど辛いとは思わなかった。気持ちが身体に裏切られる感覚を味わった。  嗅覚反応プロファイリングの最終の詰めの段階は感覚と神経をかなり酷使する検査であったためか、その日の夜、尚紀は高熱を出した。  検査の後に体調を崩してしまい、意識が朦朧としていた。颯真によると、番の香りに久しぶりに触れたことによる、不定期の発情期が疑われ、処置室に連れて行かれたが、どうやら診断では違ったようだった。とはいえ、それはすべて落ち着いてから聞いた話。    尚紀の目が覚めたのはその翌朝。点滴の調整にやってきた看護師に声をかけられて、そのまま颯真が呼ばれた。 「目が覚めたね。気分はどう?」  そう言われて尚紀は、答えにくさを感じた。 「かなり番の香りを浴びてしまったから、身体が煽られたんだね。発情期まで行かなくてよかったよ」  そう言われて、あの感覚は発情期のものだったのだと、今更ながら尚紀は知った。  嗅覚反応プロファイリングは、もっとも顕著な反応を示す香りを特定するために、患者は結果的にかなりの番の香りに近いものを浴びることになる。  きちんとフェロモンをコントロールしていないと、レムナント香による発情期が起きてしまうこともあるらしい。  ここで発情期を起こしてしまうとこれからの治療に支障を来たすが、尚紀はギリギリのところで持ち堪えたようで、颯真は胸を撫で下ろしていた。 「辛いのに気づいてあげられなくてごめんね。こちらももう少し慎重に進めていればよかった」  尚紀は小さく首を横に振った。 「こちらこそ……すみません」  頑張りすぎてしまったのかもしれないと思った。あれを何度もやりたくなかったし、自分が頑張れば早く終わると思った。 「何事もなくてよかったよ」   「発熱は、おそらく疲れもあると思うから。ゆっくり休んで。体調が落ち着いたら再開しよう」  再開。まだ続くのかと思うと憂鬱になる。これが、ペア・ボンド療法まで……と思うとどうしても気持ちが乗れないなと思う。  尚紀は小さく頷くものの、どうやらちょっと懲りてしまったらしい。  そして、そのまま再び夢の中に落ちていった。

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