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17章(8)
「西さん〜! 心配しました! ようやく回復されてよかったです」
数日後、体調が落ち着いて颯真から許可が出たので検査の続きを受けるために検査室を訪ねた尚紀を、草壁は両手を挙げて歓迎してくれた。
「……あの、すみません。ずいぶんお休みしてしまって」
そう言うと、そんなことないですよ! と草壁。
「こちらこそ、止めるべきところを西さんの頑張りに便乗して、無理をさせてしまって、申し訳なかったです……。オメガの方にとって番の香りは心地良いものという先入観が私の中にありました。申し訳ありません。反省しました」
真摯に謝罪する草壁に尚紀はそんなことないです、と慌てて否定する。まさかそんなふうに言われるとは思わなかった。
亡き番の香り、レムナント香は発情期にも大切にされるもの、と尚紀もわかっている。
だからこそ、草壁が抱いていた、オメガにとって心地が良い香りという解釈は一般論では間違っていない。
「……おそらく僕はレアケースなんだと思います」
尚紀自身は最後まで夏木の香りを受け入れられなかった。だから発情期を乗り越えるにも番の香りは不要と思ったし、あっさり忘れたのだろうと思う。
振り返れば、柊一とギリギリの生活を送る中で、尚紀にとって夏木のことは遠い過去の記憶になっていた。項の傷跡は残っていたが、夏木との絆など考えたこともなかったように思う。
しかし、柊一を失った途端にその絆はいきなり顕在化した。
しかし、その辛い時期を経て、廉と再会し、彼の導きで颯真と引き合わせてもらうことで、夏木との絆を実感する発情期を抑えるところまで辿り着けた。気持ちと身体は楽になり、廉を望めるようになった。
あとは、ペア・ボンド療法で廉と番になり、項の傷を消すことで、夏木との縁は切れる。
……そんなに簡単にはいくだろうか。
身体は夏木を覚えている。項に跡が残っている間は、番の絆は繋がっている。発情期を抑えただけでは、それを断ち切ることは叶わないし、番の香りを最後まで受け入れられなかった自分でさえ、逃れることはできない。
どんなに信じていても、気持ちや願いに反して身体は夏木を求めるのだ。
尚紀はそれを経験として知っている。
自分の身体が、自分を裏切るかもしれない。
夏木の香りを覚えているから。
ここ数日、尚紀の気持ちを揺るがせ、身体を強張らせていたのは、「ペア・ボンド療法が失敗するかもしれない」という経験からくる不安だった。
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