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18章「この出会いに、僕は感謝します」(1)

「おはようございます。体調はいかがですか?」  早朝、病室に看護師がやってきて挨拶されて起こされる。ここでの一日が始まる合図だ。 「今朝は森生先生がいらっしゃいますから、少しお待ちくださいね」  入院して三週間が経過した。  絶えず投薬治療が行われている尚紀には、外来の診察が始まる前のタイミングで颯真が様子を見にきてくれる。朝から颯真の顔を見られるのは、尚紀にとって嬉しくて安堵すること。  だけどまだ六時半。もしかしたら泊まり込みだったのかもしれない。いつだったか廉が、颯真はいつ休んでいるんだろうなとその激務ぶりを気遣っていたが本当にその通りだと、尚紀も思う。  入院してから十日間は事前治療としてプロファイル検査が行われた。  「嗅覚反応プロファイル」と「ペア反応結合評価」、それにより、番の香りとされるレムナント香が特定され、ペア・ボンド香との比較が可能になった。  ペア反応結合評価の翌日から尚紀は四日連続でフェロモン抑制剤を投与され、それもかなりの高用量とのことで、現れた副作用に悩まされて苦しんで、ほぼベッドの上で横になっていた。  颯真によると、最初にかなり強い薬剤を投与することでフェロモンを力技で抑えてしまうという。事前に副作用も出ることも説明され、辛いかもしれないから少し頑張ってと励まされていた。  もちろん、副作用を軽減するような薬剤も同時に投与されていたが、すべてを無くすというのは難しいらしい……。  フェロモン抑制剤の投与による副作用はさまざまな形で現れたが、その中でもやはり悪夢には疲弊した。寝ると嫌な夢を見る、という状況が四日ほど続いていた。とにかく眠れない、眠ると嫌な夢をみるというのは辛いのだ。  それでもギリギリで耐えられたのは薬の効果を実感したから。体力とメンタルが削がれる中で、投薬後初めてのレムナント香の反応を確認する検査では、前回ほどの辛さを感じることはなく、抑制剤の効果も現れてきた。 「最初のハードルは越えたね。次は薬も楽になると思うよ」  その颯真の励ましが、ギリギリの尚紀の気持ちを支えている。  なぜフェロモン治療がここまで辛いのか。聞けば、一般的なフェロモン療法は、尚紀が現在受けているようなオメガの身体反応を抑制するまでの治療は行われないらしい。  颯真がペア・ボンド療法でたびたび口にしていた「厳密にフェロモンを管理していく」というのはこういうことだったのか、と尚紀は実感している。 「尚紀、おはよう。まだ少し怠い?」 「……ん。おはようございます。今日は……大丈夫です」  颯真が尚紀のベッドサイドにやってきた。  朝にベッドサイドで診察されて、フェロモン抑制剤を投与される。 「今日は点滴で八時間。ちょっと1日仕事になるね。でもこの間みたいに強いものではないし、少しずつ落としていくから副作用は少ないと思うよ」  そう説明された。颯真が気遣ってくれているのはわかる。 「大丈夫です」  尚紀は意識して声を張って答える。 「もうちょっとだから、頑張って」 「はい。頑張ります」  そして笑顔で頷いた。  今日はこれでも体調が悪くないせいか、少し前向きに考えられる。  だけど、副作用で体調が悪化すればその気持ちもみるみるうちに萎んでしまう。自分は弱いなと思うこともしばしば。  最近ではどうしてこのような治療を受けることになったんだっけ……と、時折思うようなこともあった。  廉の顔もなんとなく朧げに浮かぶだけ。これも抑制剤の副作用かな、と考えたりする。  そういうふわりとした不安を颯真に言っても仕方がないし、廉に連絡を取るわけにもいかない。そもそも、彼を巻き込んだのは自分なので、そんなことを言えない。  尚紀はベッドに横になり、ぼんやりと窓を見上げる。  今日は曇り。空は厚い雲に覆われている。  十二月も半ばになった。ペア・ボンド療法までもうあと少し。

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