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18章(8)
森生兄弟への親しみを込めた告白を、潤はわずかな憂いをもって受け止めたらしい。逆に心配させてしまった。
「自分の身体のことを、うんざりするなんて言わないほうがいい。それだけ辛いってことなんだから」
言葉の選び方なのか、孤独な闘病を感じさせてしまったのかもしれない。潤の言葉は終始温かい。
「番の方には頼れないの?」
尚紀の項には、夏木がつけた跡がそのまま残っている。潤はそれに気がついていたようだ。
事情に踏み込むことを承知で、躊躇いがちに聞かれたが、尚紀も即答に困った。
すでに自分の番は夏木ではなく、廉であると強く思う。しかし、今の段階で自分は廉の番であると潤に告げることはできないし、そもそもまだ番ってさえいない。言えないし、うまく説明するのも難しい。今の時点で廉と番になれる保証もないのだから。
「実はもういないんです。死にました」
複雑な背景は説明できないので、事実だけ述べたが、それさえ衝撃的だ。言葉を失う潤に、尚紀は言い訳のように言い添えた。
「……ひどい話ですよね。番にしておいて、先に死ぬなんて」
苦笑するしかなかった。決して番として夏木を愛していたわけではないが、これも本音だ。
「番契約って、相手が死んでも解消されるわけではないんですね……」
もし契約が消えていたら、ここまで自分も廉も苦しむことはなかったのにと思う。
しかし、潤はまったく違うことを考えていたようで、真面目な表情で言った。
「そういうのって、医療の力である程度軽減できないものなのかな……」
その言葉に尚紀は驚く。すごいな、ここから医学の話に繋がるんだ、と彼の発想力と聡明さに、尊敬の念が湧く。
同じオメガでも全く違う……、鋭い知性が宿る人だ。それでいて自分で運命を切り開くような逞しさと行動力もあって。
一体、この人の番になる人はどんな人なんだろうと下衆な勘ぐりだけど、少し興味も湧く。きっとアルファでも器が大きい……、この人の知性を引き出せるような、誠実で寛容な人でなければ務まらないだろうなと思った。
「颯真先生が……」
「颯真?」
尚紀は頷いた。
「颯真先生が番を亡くしたオメガに現れる体調不良の治療に熱心だと聞いたんです」
だから誠心医科大学横浜病院に入院しているのかと合点した様子。
ここから少し治療の話をすることになったが、ペア・ボンド療法という言葉は出さないように、詳しいことは言わないように、自分がボロを出さないようにと尚紀は気遣った。
罪悪感しかないけれど、廉に迷惑をかけるわけにはいかないのだ。
潤は興味が湧いたようで、尚紀に次々に質問をしてきたが、これ以上は……と思ったところで、驚いたことに、今度は颯真が顔を出した。
「おい、潤。帰るぞ」
病室の扉のところには、スーツ姿の颯真がいた。尚紀が初めて見る、白衣以外の颯真の姿。
本当に帰り支度をして潤を迎えに来たらしい。
「そうませんせい!」
尚紀がそう反応すると、颯真はまた明日な、と言って、潤を促す。
驚くことに、そしてかなり嬉しいことに、潤は尚紀にこう言った。
「また近く来るよ」
なんてことだろう。また来てくれるらしい!
尚紀は嬉しくなって、また来てくださいね、絶対ですよ、とさらに念を押して、二人をニコニコしながら両手をで手を振って見送った。
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