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18章(10)
その後は一日に何度かフェロモン値の経過を観察されながら日々を過ごしたが、不安定な気持ちの現れか、悪夢を何度か見た。
夏木が出てきては尚紀の深層にある不安を煽ってきた。夢に過ぎないと、尚紀もわかっていたが、それでも、どうしても気持ちが振り回されてしまう。
本音では、廉に会って満たされたい気持ちでいっぱいだった。言っても叶わぬことだから口に出さないだけで、思い焦がれるような気持ちは変わらない。
颯真と話したように、もうすぐ廉に会える、それだけが心の支えだった。
明日は、もうフェロモン負荷テスト、という日の夜。外の陽が落ちてから、尚紀は病室を出て、病棟に設けられているデイルームと呼ばれる談話室にやってきた。
ここには大きな窓が設置されていて、みなとみらいの景色が望める。昼間はかなりの絶景に入院患者や見舞客がここで面会するということもあるみたいだが、この時間になると人気はほぼない。
尚紀は明るい雰囲気の赤色のソファに腰かけ、室内履きを脱ぎ上がり込んで膝を抱えた。そして、窓の外を眺める。室内のライトを押さえると、まるでこの夜景のなかに自分がいるような感覚が得られるのだ。
冬のみなとみらいの夜空は、空気が澄んでいてとてもきれい。
だけれども、尚紀にとっては、このガラス一枚を隔てられた向こうの世界に廉がいる。それだけが、尚紀がこの外の世界を恋しく思う理由だった。
自分は入院しているだけで、行動制限をされるほどの病状でもないし、実際にされているわけではない。もちろん今このみなとみらいの街並みに出ることは叶わないが、外の空気を吸いに少し外にでたいと行ったら、院内の敷地であれば許されるだろう。そのくらいの自由はある。見舞客に制限もないし、院内は自由に歩くことができる。
考えてみれば大した制限を受けているわけではなく、自由な部分も大きいが、いま一番会いたい人に会うことが叶わない。
もっとも愛おしいと思う人の声を聞くことも、姿を見ることもできない。
唯一切望することだけが、最も叶わないこと。
自分が動ける範囲で、ここが一番廉に近い場所のような気が、尚紀にはしていた。
「尚紀さん」
突然背後から呼びかけられて、尚紀は驚く。その声は最近とても聞き覚えがあるものだが、まさかこんな時に聞こえるとは思っても見なかった。
だって、もう結構な夜だし……。
尚紀が振り返ると、そこにはスーツ姿の潤がいる。スリムなシルエットのスリーピースを身につけて、ストイックな雰囲気。
「……潤先輩……」
潤は優しい表情を浮かべている。しかし、少し気遣うようなものか。きっとそんな表情を自分がさせているのだと尚紀は気がついた。
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