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同じ目

 まるで日常会話を並べるように、天川の口調は平坦だったが、 その貌、表情、肢体には、舐めれば何か甘みがするのでは、と錯覚するような媚態に似た膜が包まれている気がした。  背骨から(うなじ)へ指を添うおののきが滑る。(ひろ)さんが言っていた、天川が『纏う』膜。 「人に見せちゃいけない、危ないからって、よくタートルネック着せられてたっけ」  何が危ないんだか、笑い声を漏らし膨れた天川の涙袋を、俺はただ見つめる。 「誰でも同じことしてるって、思ってたよ」 「……」 「立ってトイレするやり方とか始末、男親でないと詳しく教えられないでしょ。そういうのの、延長かと思って」 「……」 「って、大人と子供でこんなに違うのかあって、結構小さい頃から、びっくりしてたもんだよ。俺のは、ちょっとしか持ち上がらないのに、でも親父のは、熱くて凄いけど、時々とても苦しそうだから、どうにかしてあげなきゃ、いけないのかと思って」 「……もう、いい」 「だから親父も、『透は偉いな。透も早く大人にしてやらないといけないな』って、膝に乗せて教えてくれたんだよ。きっと早かったな。8歳くらい。下に生えたのも、親父が一番に見つけたし」  を教わる天川が、無垢な瞳で父親を見上げている姿が去来して、俺は耐えきれずに(くう)を睨んだ。 「だから俺、『虐待』だなんて思ったこと、一度もないんだよ」 「……子供には、子供に教える正しいやり方がある。そこに導いてやるのが大人の義務だ。 天川の父親は、それを放棄して天川の『権利』をも奪った。俺はそれを、到底理解も認めることも出来ない」 「奪われたって、弁護士の先生もよくそこ庇ってくれたけどさあ、『知識』として間違ったことは植えられてないでしょ。寧ろそこ、父親としての(せき)果たしたんじゃないかなあ、あの人。半端に避けたりするせいで、おかしな犯罪に走る奴とかいるじゃん。……無理矢理、嫌々教わった訳じゃないんだよ。そりゃ痛くてびっくりすることもあったよ。そうするとゆっくり、必ず止めてくれたんだ。『大丈夫だ透。息、ゆっくり吸ってごらん』って。 ……俺と親父の『共同作業』だよ。そこを否定されると、何か違うって、思っちゃうんだよね」 「……、」 「だから違うんだよ。俺は、希んで親父に抱かれた」 「……それは、そういう親に心も体も呑み込まれた、結果じゃないのか」 「違う。幾ら何でも、成長すれば俺にだって『それ』が良いか悪いかの判別もつく。でも、やめられなかった。…………高3の六月。18になったばかりの時だったな」    天川は、『その時』を語ろうとしている。  それを俺の悪寒が察知したが、澱みを見せない彼の唇を、止めることは出来なかった。 「どこから貰ってきたのか、季節外れのインフルエンザになっちゃってさ」 「……」 「インフルって、発症してから5日間、解熱してから2日間隔離しなきゃいけないでしょ。 家の中でも一週間、きっちりそれ守って、さあ元気になったって、親父見たら、俺と同じ目 してる訳だよ。 物凄く、待ってたって。俺が元気になるまで、指一本も触れなかった」 「……」 「そしたら、に盛り上がっちゃってさあ」  口を塞ぎたい、耳を塞げばいいのに。  どうしてかそれをしてやることが出来ない。 「妹は部活の合宿に行ってて、母親はパートで夕方までいない。もう待ってたんだ。二人してその時を。 あれって、溜めるとやっぱり放出欲が凄いんだろうね。自分でもろくに自分の身体に触れてなかったから、感度がとんでもないことになっててさあ」 「普段はおとなしめにやってたんだけど、多分俺、もうしてたと思うよ。 あれで我を忘れるなんて、後にも先にもないよ。親父も、そうだった。 『ああ透……っ、何て身体だ……っ!』とか恥ずかしいこと口走ってたし。 二人して、もうってところで、鍵開ける音にも気付かなくてさ、」

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