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断章
死に繋がれたふたりは、果たして結ばれることが出来るのか——。
──章・塀のうちでの──
いつ、この身が露のごとく散っていくか判らず、未来への希望も断たれているかのようなこの閉塞した塀のうち で、
男は、若芽のように瑞々しい皮膚を纒ったひとりの青年と邂逅して しまう。
にごりのない湖面さながらの黒髪。白鳥のように白く、ほそい頸の線上に浮かべられた──それ。
無垢を纏いながら、だがその瞳に浮かべられていたのは深淵もはかれない虚空だった。
その虚空はどこに繋がっているのか。
そこにひかりが差すこと、『ここ』で生きていくなかでの希望、ひかりを、
ともに感じることを、朔 は無意識に願っていたのかも知れない。
「──連歌って、知ってる?」
「……それ、一緒にやってみないか?」
「えっ……!?」
朔は、好きな『歌』で、青年と"言葉"を通してこころを通い合わせるために、歩み寄る。
歌を通じ、少しずつ融 けだしていくふたりの距離。
だが、透 に纒う闇は、黒い繭で撚 ったように強固で深かった。
「人間には、生きていてはいけない人種が在 ると思うんだよ」
「歌を詠むと、その人のこころが解るって、高階さん言ってたよね。
歌の相手に相応しいか、今日はそのこころ、明かしてあげるよ」
それでも、構わない。
互いに、もう戻ることの出来ない、『罪』という汚濁を自らかぶったのだから。
それは、啓示だった。ひとつの希望だった。
いや、誰もが他愛なく交わす『約束』でありたかった。
それを、彼と交わすことで、自分もここに生きて良いのだという結び目をつくって、
彼のこころへも同じように、眼で繋げた。
「桜、一緒に見よう」
その約束を胸に、ふたりはまた、塀のなかでの季節を巡っていく。
──章・歌──
季節は巡り、大樹は総身に誰もが待ち希む白桃の蕾を膨らませ、いまにもその息吹が春の陽のなかに薫気を解かせようとしていた。
ふたりは、約束した桜をともに見上げることが出来るのか。
そして、──透が桜へこめ続けていた、想いとは。
──章・ゆるしの壁。その、外へ。彼の伏せられた横顔──
立ち止まっていても。幾たびのふれあい、別離 を繰り返してそのたび足掻こうとも。
また、季節は巡り、絶え間なくその刹那と感情の結晶のなかへ、朔を掬いとろうとする。
透明な壁に隔たれた、くずおれても触れられない、その先の手のひら。
左掌にこめられた熱。
罪の烙印を浮かべてもなお怯まない、花車 なその白い頸。
──章・ひかりに、ふれる。この世のきれい。はるの景色。ずっと──
鎖 じた感情が解き放たれていく兄。
しろい室 で見た、何よりもきれいなもの。
そして、万感の大気のなかで、朔が何よりも見たいと願っていた、景色とは。
揺蕩う大河のように、ひたむきに前を向いて息づくひとびとの生命 の流れ。
その片隅で、ふと、白桃の花雨のひとしずくが、ふわり、と翻る。
誰も知らない。でも、誰にも奪われずに、満たされる熱をついに知った魂。
桜は、──いつもふたりを、その瞳に映じていた。
『塀のうちの字余り』 ─断章─
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