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第3話 ホストクラブ
翌日仲里が和枝に電話をしてみると、和枝はふたつ返事でOKした。
ヒマなので今日にでも行く、と言う。
「アタシ一人でいいの? なんなら友達も何人か誘って行こうか?」
「まあ、それはどっちでも」
「まかせなさいよ! こういう仕事は最初が肝心なのよ。章吾くんが舐められないように派手な友達連れていってあげるから」
和枝は完全に面白がっていて、ずいぶん乗り気なようだ。
「で、そのお店、どこにあるの?なんていうお店?」
「渋谷のエレガンスっていう店らしい」
「うわ。知ってる。結構有名な店だよ、それ。章吾くん、すごいところにスカウトされたんだ」
「有名な店なのか……」
まさか和枝がその店を知っているとは思わなかったが、それだけ名の通った店なのだろう。
確か先輩がやっている店だと言っていたが、沢田にそんな先輩がいることすら初耳だ。
思えば仲里は沢田の大学時代の交友関係はまったく知らない。
「じゃ、多分場所分かると思うから、適当に行くね」
「待った……俺も行く」
「忍が? 男がホストクラブに何しに行くのよ」
「いいだろ、別に。その、後学のために」
「は、はーん。そんなにおホモだちの章吾くんが心配なんだ」
「誰がホモだちだっ!」
「だって、アンタ章吾くん以外に友達なんていないじゃない」
「うるさい。親友なんてのは1人いたら十分だ」
「ま、いいわよ。忍が来るなら、アタシの友達紹介してあげる。どうせ相変わらず彼女もいないんでしょ?」
「余計なお世話だ。俺はチャラチャラした女は嫌いなんだよっ」
なぜか仲里も一緒に行くことになってしまった。
やっぱりどうも自分の目で確かめないと、沢田がホストに向いているなどと思えない。
働いているところをこの目で見て、向いてなさそうならはっきりと止めようと思ったのだ。
本当は飲みになど行っているヒマなどないのだが、親友が道を踏み外すかもしれない、という時にそんなことは言っていられない。
仲里は必死で仕事を片付けると、和枝との待ち合わせ場所へ向かった。
和枝は約束通り3人の派手な友達を連れてきていた。
モデル仲間だという美人揃いの4人と仲里、というグループは人目を引いた。
まだ時間が早いのかお客さんの少ない店内で盛り上がっているのはその席だけだ。
沢田は大喜びで和枝とその友達に囲まれてバカ騒ぎをしている。
「ショウの友達?」
「ああ、同級生」
仏頂面で座っている仲里に、一番若いホストが気を使って話しかけてくる。
ショウ、というのが章吾の店での源氏名らしいが、その呼び方もなんだか気に入らない。
「ショウの友達ってみんなキレイな人ばっかりだね。あの人、ショウの彼女かな? 和枝さんて人」
「違うよ。俺の姉貴」
「お姉さんなんだ。どうりで」
若いホストが大きな瞳をぱちぱちさせながら、仲里の顔を覗き込んでくる。
「あなたもキレイな顔してるもんねえ」
「男がキレイな顔もないだろ」
「そんなことないよ。ボクはキレイな人は男でも女でも好き」
男にホメられても嬉しくもなんともない、と思いながら仲里は不機嫌そうに酒を飲み干す。
退屈でこんなところで飲み続けていたら悪酔いしてしまいそうだ。
女はなぜこんなつまらないところで大金を使って遊んだりするんだろう。
見かけだけがキレイな男が、中身のない話をしているだけなのに。
隣ではモデル4人組とホスト4人がゲームを始めてしまった。
王様ゲームという馬鹿馬鹿しいゲームに仲里は混ざるつもりなどない。
そんなゲームに混ざって負けでもしたら、姉の和枝と罰ゲームにキスをさせられるはめにでもなったらどうするのだ。
一気飲みや罰ゲームが続いて、どんどん盛り上がっていくのを横目に、仲里は一人ぼんやりと沢田を眺めていた。
楽しそうにしている。
アイツ、女の前ではこんな顔するんだな。
いや、あれは沢田じゃない。
ショウ、なんだ。沢田とは別人だ。
他のホストたちの中に混ざっていても、沢田は見劣りするどころか、一番いい男に見えた。
認めたくはないが、沢田はホストという仕事をたった二日目でもちゃんとこなしていた。
2時間も立つと店内は客が増え始め、仲里の席を取り巻いていたホストたちもそれぞれ自分の客の席へと移って行った。
そして黒服の店員が沢田に何か小声で告げると、沢田も席を立った。
「すみません、ちょっと失礼します。新人なので、別の席にご挨拶に」
沢田が鮮やかな笑顔を浮かべて和枝たちに挨拶をすると、仲里の方に悪いな、というような申し訳なさそうな表情を向ける。
やれやれ、これで帰れる、と仲里は思ったのだが和枝たちは一向に帰る気配などなく他のホストと馬鹿騒ぎをしている。
先に帰ろうか……と思案していると、また別のホストがやってきた。
少し年配で貫禄がある。
「エレガンスへようこそ」
俳優のような整った顔のその男は、優雅な笑みを浮かべて大げさに挨拶をした。
「店長のアキラです」
こいつか……
こいつが沢田を悪の道に引きずり込んだ元凶か、と思わず仲里がにらみつけると、よりによってアキラは仲里の隣に座り込んだ。
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