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第14話 追いかけた
最終の新幹線に間に合って、深夜の仙台で仲里はまず駅前のビジネスホテルに飛び込んだ。
実家はそこから車で30分ほどの距離だが、突然帰ったら家族が何事かと思うだろう。
仙台へ向かう道中、何度か連絡をしてみたが、相変わらず沢田の携帯の電源は切れたままのようだ。
実家へ帰っているといいんだけど。
失業してショックでホームレスになったり自殺したりする人だっている。
突然行方不明になるなんて、それだけであり得ない行動だ。
とにかく、無事だとわかればそれでいい。
祈るような気持ちで、沢田の実家へ向かう。
なつかしい景色が見え始める。
沢田とともに学生時代を過ごした街。
あれから十年以上も、離れずに仲良くやってきたんじゃないか。
どうしてリストラぐらいでこんなおかしなことになってしまうんだ。
正直、沢田が泊めてくれと言ってやってきてからの激動の一週間に仲里はついていけてなかった。
思えば、沢田はきっと切羽詰っていたのだろう。ホストになるなんて言い出したこと自体がやっぱり沢田らしくない。
変な気を起こさずにいてくれたらいいが……と不安な気持ちでタクシーを降りて沢田の実家の二階を見上げる。
沢田の部屋だった二階の角の窓に、明かりがついている。
深夜で迷惑だろうと承知の上で、仲里はインターホンを鳴らした。
「忍……どうしてここに」
「バカ野郎! どうしてじゃないだろっ! なんで逃げた」
「しっ……大声出すなよ、夜中なんだから。と、とにかく入れ」
「お邪魔する」
勝手知ったる沢田の家だ。
高校時代は毎日のように訪れていた。
「家の人は?」
「ああ、今日は消防団の夜警に出てて」
沢田は冷蔵庫からジュースを2本出すと、おずおずと仲里に差し出す。
「俺の部屋……いくか」
「そうだな」
懐かしい沢田の部屋は高校時代のそのままだった。
急に過去にタイムスリップしたような不思議な気持ちになる。
仲里がソファに座ると、沢田はベッドに腰をかけ、それからごろんと横になった。
天井を見つめたまま、沢田が口を開く。
「どうしてこんなところまで追いかけてきたんだ。放っておいてくれたらよかったのに」
「お前、そんな言い方ないだろう。突然行方不明になって電話もつながらなければ、警察に届けるぞ、普通」
むっとしたような仲里の口調に、沢田は目をそらしたままごめん、と小さく謝る。
「章吾……ちゃんと順番に、俺にわかるように話してくれ。俺はお前が何考えてるのか全然わからない。このままじゃ気持ち悪くて終わりにできない」
「終わりって……そんなつもりじゃなかったんだ。ただ、少し離れて頭を冷やせばまたお前とは友達に戻れると思って」
「だから、そうやって勝手に頭冷やす前に、きちんと説明しろ。なんで俺から逃げる必要がある」
「逃げるつもりじゃなかった。金がなかったんだ」
情けない顔をして沢田はため息をついた。
実家に帰って少しは落ち着いたのか、ぽつぽつと自分のことを話し始める。
「俺さ、会社クビになったんだ。リストラで」
「知ってる。アキラさんに聞いた」
「知ってたのか……お前には知られたくなかった」
「章吾が悪いんじゃない。会社の業績が悪かったんだ。そんな会社、辞めて正解じゃないか。ただ、お前は本当にホストになりたかったのか? それとも、あのアキラって先輩のそばにいたかったのか? そこんとこ、はっきりしてくれないか」
「ホストになるつもりなんか最初からなかった。ただ、田舎に帰る前に一週間だけでもお前のそばにいたかったんだ。それから帰ってやり直そう、と決めてた」
「ホストになるつもりはなかった。アキラという先輩が好きなわけでもないんだな?」
確認するように仲里が言うと、沢田は少し顔をしかめてジュースの缶をゴミ箱に投げ捨てる。
「アキラさんは好きだけど、お前が思ってるような好きじゃないぞ。ていうか、忍、ヤキモチ焼いてんの?」
「お、お前が俺よりアイツを頼りにしているのが嫌だったんだ」
仲里はそれがヤキモチだったと自覚して顔を赤らめる。
「なんでも良かったんだ。手っ取り早く稼げてまとまった金ができたら、まだ東京でもやり直せるかもしれないと思った。だけど、お前に店に通われたら俺、ホストなんて続けられねぇし」
「そうか? 俺は結構面白かったぞ」
「ちぇっ、あんなに反対したくせに」
最初からこうやって素直に話してくれていたら、こんなややこしいことにはなっていなかったのに、と仲里は小さくため息をついた。
まあ、でも沢田が意地を張ってしまう気持ちもわからなくはない。
男なら、弱みを見せたくない時があるだろう。特にそれが自分にとって大事な相手なら。
「お前……最近少し変わったよな」
「俺が? 変わったのは髪形ぐらいだぞ」
「いや、雰囲気変わった。なんつうか、その……色気が出てきたというか」
沢田は正面から仲里を見ようとはせず、ちらちらと横目で伺っている。
「色気って……俺にそんなものあるか。お前の欲目だ、それは」
「そんなことない。お前が店に来た時、店中のやつらが忍を見てた……それで、俺……暴走した」
「それから、逃げた、と」
「うるさい。俺の気持ちなんてお前にはわかるもんか」
すねたように壁の方を向いて転がっている沢田が妙に可愛く思えて、仲里は立ち上がるとベッドの端に腰掛ける。
そっと沢田の頭に触れると、沢田は驚いたようにびくっと首をすくめた。
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