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第12話 「なぁ、声、出して。顔見れねーんだから、声聞きたい」☆
「……っ」
ずりゅ、とミロのものが中に入ってくる。
嬉しさと苦しさがないまぜになって省吾は息を呑んだ。
省吾の方からお願いして、今日は後ろから抱いてほしいと頼んだ。 男の体の特徴であるペニスと平らな胸を見せたくなかったのだった。ミロたちのあの会話を聞いてから3日、省吾はうまくミロと接することが出来ないままでいる。
鍛錬中は話す機会があまりないからまだいいが、勉強を見てもらっている時などはミロの顔から目をそらし、会話が空回る。
自分の感情を読み取らせないようにと明るく振る舞うのだが、どうしても以前みたいに笑えなかった。ミロのほうはというと、時折不思議そうに省吾を見つつもあえて聞いてこない。
今日も、ぎこちなさは感じていながらもなんとか勤めをこなせるように愛撫を受けた。後ろからするのは初めてなので、いつもとは違うところに当たってもどかしかった。
「大丈夫か? 痛くねぇ?」
「ん……、大丈夫、だから、動いて」
頷きながら続きを催促する。ミロの手が省吾の腰を掴み、前後に揺らしてきた。
「あっ……、あんっ……うっ……」
シーツに顔を埋めて衝撃に耐える。ミロのものが入ってくると、それだけで体が喝采をあげる。本当に好きなんだな、と諦念とともに考えた。
いつもだったら挿入と一緒にキスもして、どろどろに溶け合うのが気持ちよくて、満たされていた。けれど今日はどうしても苦しさが足を引っ張る。
ぎゅう、と目をつむりミロを妄想した。
妄想の中のミロは、笑っていた。好きだよ、と囁いてくれる。幸せな気持ちになった。
こうなればいいのに。あり得ない妄想はけれど省吾の心を慰めてくれる。
ふいに首筋に熱を感じる。
ミロが首の付け根を甘咬みしていた。
「んんっ……」
びくりと体が跳ねる。
「気持ちいい?」
かすれた声で尋ねられる。コクコクと頷いた。
「省吾、後ろからされるの好きなの? されてみたかった?」
そういうわけじゃないけれど。
少し止まり、けれど頷いておいた。
「ふぅん……」
呟いて再びミロは腰を動かす。
「んっ……、あぁっ……」
くぐもった声がシーツに吸収されていく。再び首筋にミロの唇の感触がした。
「なぁ、声、出して。顔見れねーんだから、声聞きたい」
低音が耳に響き思わず身震いする。
声、聞きたいのか。
そりゃ、一種の目安になるし、何も反応がないよりはいいよな、と気持ち大きめに声を出す。
はぁ、とミロのため息が聞こえた。
「言っておいてなんだけど、省吾は演技がうまくねぇな」
ずるりとミロのものが引き抜かれる。
まずい。
思って振り返る。ミロは冷めたような顔をしていた。
「悪い……、俺、上手く出来なくて」
「いいよ。演技してほしいって意味じゃないし」
頭をかきながらそっぽを向く。
じくじくと心臓が傷んだ。
「気分が乗らないんなら今日は……」
「俺、舐めようか!?」
ミロの言葉を遮るように省吾は尋ねる。
「は?」
眉をしかめたミロを押し倒し、足を広げさせる。先程まで自分の中に入っていたというのに汚さは感じなかった。
「だから、俺が、ミロのこれ、舐めようかって……」
「……舐めたいのか?」
尋ねられ、逡巡する。
すごく舐めたいというわけではなかった。
けれど、自分とすることで気持ちよくなってほしかった。
首を縦に振ると、ミロは体から力を抜く。
「無理そうだったら、いつでもやめていいからな」
言いながら省吾の頬を撫でる。初めてで勝手もわからなかったが、自分の気持ちいいところを重点的に攻めるとミロの吐息が熱くなっていく。
「……んっ」
上目遣いに様子を覗くとミロはじぃ、と省吾を凝視していた。目と目があい、恥ずかしくて視線をそらす。ちゅぱ、と亀頭から唇を離した。
「……どうだ? 気持ちいいか?」
片手で竿をしごきながら、もう片方の手で袋を揉む。パンパンにふくれていた。竿も硬くなっており、血管が浮き出ている。
「うん……、興奮した」
返され、嬉しさで頬が赤くなる。再び舐めようとしたら両手で側頭部を掴まれ止められた。
「……ごめん、やっぱ入れたい。入れていいか?」
じぃ、と正面から見つめられ、思わず頷いた。ミロに情欲を込めた瞳で見つめられ、心臓が高鳴る。せめて今だけは省吾の体にも魅力を感じてもらえているのだと思うことにしたい。
「……うん」
頷いて後ろを向く。不満げな声が聞こえた。
「前からじゃ駄目か?」
「……え、あ……、萎えるかもしれないし」
「ここまで硬くなってんだから萎えるわけないだろ」
ぴとり、と尻の割れ目に亀頭の感触がする。
ぎゅ、と省吾はシーツを握った。
「……わかった」
振り返り、足を開く。ミロはホッとしたような顔をして両足を掴み更に開かせると指を二本省吾の後孔に入れる。つい先程までミロのものを受け入れていたのだ。まだ緩く、ミロの指をあっさりと引き入れた。
「……挿れるな」
指を引き抜くとミロはず、と中に押し入ってくる。すっかり彼に慣らされた体は歓喜で包まれミロを歓迎した。
「ぎゅうってしめつけてくる」
満足そうにミロは告げ、省吾の唇に唇を落としてきた。甘咬みをしてすぐに離れ、腰を掴むとガツガツと動かしてくる。
「あぁっ! んぅっ……あっ……」
省吾の口から喘ぎ声が漏れる。甲高くなった声は、女性のものとは間違うべくもない。低音である。
「ははっ……、省吾、かわいい。気持ちよさそう」
ミロの先端が奥をつくたびに快楽が全身を駆け回る。頭がおかしくなりそうだった。省吾は手を伸ばす。ミロは慣れたように背中を近づけ、首に回す手を許してくれた。
「んっ……、きもちいいっ……、すきっ……」
言ってしまった。背筋が冷える。ミロも一瞬だけ動きを止めたように感じた。省吾は慌てて付け足す。
「そこ、好き……っ、気持ちいい……」
ミロの目が細められる。
「ここ、好きなんだ」
省吾の腰をつかみ、奥の少し腹側の方をなぞるように腰を動かす。本当はミロが好きだと告げたかったが、彼が義務でしてくれている以上重い感情なんか押し付けられない。必死に省吾は首を縦に振った。
「うん、そこっ……、すきっ、あたま、へんになるっ」
あとになって自分から弱点をさらけ出したことに省吾は気がついた。
ミロは狙ってそこばかりを攻める。おかげであっという間に絶頂に達したし、二度目をするまでもなくゲージが満タンになってしまったのだった。
朝の白い光で目を覚ます。
体はきれいに清められていた。ミロは、と探すが今日も彼はいない。彼はこうして省吾が先に寝てしまったら体液を拭い取り、ベッドに寝かせておいてくれる。
優しさがつらい。
今日も満タンになったゲージを見ながら省吾は大きなため息をついた。
そして決意した。
相手が義務だと思っているのであればせめて気持ちよくなってもらいたい、と。
がんばって省吾のほうから舐めたり扱いたりしてミロに良い思いをしてもらいたい、と。
彼が省吾のことを好きになることはないとわかっていても、せめて嫌われたくない。
両手を握りしめ、省吾はそうかたく決意したのだった。
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