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第32話 「省吾、俺の言った事信じてねぇの?」☆
ミロは省吾から離れ、扉のほうへ向かう。
「ありがとう、ミロ。話をあわせてくれたんだよな」
「え?」
ミロは立ち止まり振り返る。省吾は苦しい心臓を抑えながら笑った。
「あんな状況で言ったら、そりゃミロも俺の事好きって返さざるをえないよな」
バタン。
省吾の部屋の扉がやや乱暴に閉じられた。ミロは目を細めてつかつかと近寄ってくる。
「え、あの、ミロ?」
「省吾、俺の言った事信じてねぇの?」
これ以上は下がれない、というところまで追い込まれ、省吾はベッドに倒れこむ。
「いやでも、あれって話をあわせてくれたんじゃ……。違うのか?」
「違う」
ミロは騎士が目上の者に敬愛を示すように片膝立ちで座り、革袋から指輪を取り出した。
「…………え?」
ぱちり、と省吾は目を瞬かせた。
「ずっと、お前が役目を終わらせるのを待っていた。今なら、俺はお前の恋人に立候補できる」
熱い瞳で見つめられ、驚愕で頭が白くなる。
指輪は黒く飾り気のない指輪だった。ミロは省吾の手を取り指輪を手に握らせる。
「これを受け取ってくれないか?」
「……これ」
本で読んで知っているが実物を見るのは初めてだった。
「なんでだ? これ、好きなやつに渡すんじゃ……」
「だから省吾に渡してるんだろ」
あまりにも省吾が困惑しているからミロも困っているようだった。ミロの手が省吾の掌を開かせようとする。とっさに握りしめて抗ってしまった。
「おい……」
「返したくない……」
「………………」
ミロがじっと省吾を見つめる。省吾は恐る恐る掌を開くと指輪を取り、左手の薬指につけた。本でこちらの世界でも婚約指輪はここにつけるのだと知っていた。
「やべぇ……、嬉しい」
視界が滲む。目の縁に涙が溜まっていたのだろう、ミロは嬉しそうに目を細めて拭ってくれた。
「俺、がんばって働くから。働いて、なんとか俺からも指輪を買ってミロに贈るから……」
たどたどしく告げる。ミロはぎゅっと抱きしめてくれた。
「うん……、待ってる」
少し離れ、ミロは省吾の唇に口づける。触れるだけの優しいキスを数度繰り返した後、遠慮がちに舌が侵入してきた。
「……ん」
唇を開けて口内に招き入れる。絡み合ったところが甘い気がした。夢中になって求めてしまう。
しばらくそうしてキスをして、そっと口を離すと二人の間に白糸が伝う。ミロは腰のベルトを外し剣と革袋をサイドテーブルに置いた。そのまま抱きしめるようにベッドに押し倒す。
「抱いていいか?」
尋ねられ、省吾はコクコクと頷いた。ミロの手がローブのあわせから中に入ってくる。腰で締めた布紐をほどかれ、あっという間に上半身が裸になった。
「……あいつに体は触らせてないよな?」
ミロは確認するように省吾の胸板に触れてくる。お互いの顔がやっと見えるような暗闇の中だから肌の様子はわかりにくいのだろう。
「当たり前だろ!? てか、この2年間、ミロ以外に抱かれた事ないし」
「……あの日の蓮に指名された日も?」
真顔で見つめられ、省吾は頷く。ミロは嬉しそうに目を細めた。
「そっか」
まるでマーキングをするようにキスマークを落としていく。そこでやっと省吾は気が付いた。
「あ、でも今何の用意もしてない。香油もないし、慣らしてもなくて……」
省吾はミロの体を押し返す。
「ここまできてお預け食らわせる気かよ」
ミロは革袋を手に取ると板状の木の皮みたいなものを取り出した。
「なんだ、それ?」
「これは口で噛んだら唾液がたくさん出て、しかも唾液が粘っこくなるんだよ。まるで香油みたいに」
に、と笑ってミロは省吾の口に押し付けてくる。いきなり入ってきたそれはやはり木の皮らしく、独特の味がした。味付けがされているのか、少し酸っぱく、口の中でどんどん唾液が生成されていく。ミロ曰く、庶民のラブグッズの一つらしい。
「噛んでてくれよな」
ミロは省吾の下着を脱がすと省吾の陰茎を口に含む。何度もミロによって愛撫されたそこはミロに触られた時には既に頭をもたげていた。じゅ、じゅ、とあえて水音をさせながらミロが吸う。
噛んでいろと言ったくせに、容赦なく責めるものだから唾液が口から溢れそうだった。
「んっ、んんぅっん~~~っ」
必死で口を押さえ、喘ぎ声をかみ殺す。そんな省吾を面白がるかのようにミロは片方の手で袋を揉み、もう片方の手で口内に入りきらなかった分をしごいた。
「ぁあっ……、もっ……」
口内では舌先で鈴口を刺激される。省吾の好きなところを知り尽くした手管に省吾はあっけなく達してしまった。
「んんんんっ」
びくんびくんと体を震わせると同時にびゅる、と白濁が飛び出る。ミロは口で受け止め、自身の唾液と混ぜて掌に取り出した。
「唾液、作れた?」
そんな事を言いながらミロは精液の乗った掌を省吾の口に持っていく。自分の出したザーメンの匂いにくらくらした。抵抗する気力も起きず、口を開け唾液をミロの手にこぼす。
「……なんか、エロいな」
全部出たと思ったのか、ミロは省吾の口内に指を突っ込み先ほどの木片を取り出し、サイドテーブルに置いた。
そうして出した液体を後孔に塗り付ける。
「あぁっ」
すっかり縦に割れた穴は触られただけで快楽を脳に届けてきてくれた。
ミロの指がいきなり二本挿入される。中でぐちゃぐちゃと動かされ刺激された。慣れたもので前立腺も中指の腹で刺激され、とろけるような気持ちにさせられた。
「もう、お願い、いれて……」
ミロの腕を掴んで懇願する。さっきイッたばかりなのに腹の中がうずいて仕方がない。ミロは省吾の顔を見てごくりと喉を動かし、一度離れ服を脱ぐ。彼のたくましい体が目に入り恥ずかしくて視線を下にずらすと、ミロのものは硬く勃起して先走りで先端がぬらぬらと光っていた。
「……ミロが俺で興奮してる」
思わず声に出してしまう。ミロは少しバツが悪そうにした。
「あたりまえだろ」
「……俺、ずっとミロは薬で興奮させていたんだと思ってたから」
「それ、知ってたのかよ」
ミロは省吾の足を開かせると正常位で入れようとする。先端が穴の縁に触れ、期待で胸が鳴った。
「ついでに言うと、ヒジリ様に恋しちゃダメって規約もあるんだよ」
けれど入れようとせず、ミロは呟いた。
「だから、薬を飲むことで必死に隠してた。お前に興奮してるって他の奴ら……、特にノアにバレたら役目を下ろされるから」
そこまで言うとミロは唇を引き結び、一気に奥まで押し入ってきた。
「んんんっ……」
体がビクビクと震える。入れられただけで軽く達してしまったのかもしれない。
「本当は薬なんて飲まなくても硬くなるし、プライベートでお前の事考えながらオナってた」
目をつむって耐えながら囁かれた言葉に嬉しくなって締め付けてしまった。は、とミロが息を吐き出す。
「……中、ぎゅって締まった。省吾はどうだったんだ?」
尋ねられ省吾は視線を逸らす。しかし、ミロが先にこんなに言ってくれたのだから、と口を開いた。
「俺も、ずっとミロの事が好きだったから、ミロのこと考えながら後ろ弄ってた」
「……本当に? クリスや蓮じゃなくて?」
久しぶりの名前にミロのほうを見る。もう二年は会っていない。
「……クリスは、その」
悪い事をしたと思っている。彼は完全に巻き込まれただけだ。
「……やっぱ、言わなくていい」
拗ねたように言うとミロは一度引き抜くとぱちゅんと中に突き入れる。
「んっ!」
クリスの名前を出されて一瞬冷えた快楽がまた熱くなった。ガツガツと腹をえぐられるような快楽に目を開けていられない。
「あっ、あぁあっ、んんっ、あぁっ、ふぅっ」
口から唾液と喘ぎ声が止まらない。口を閉じる事もできず、舌まで出てしまっていた。ミロは省吾の口に口づけてくる。先ほどの精液の味がした。ミロはこうしてキスハメをするのが好きで、正面から抱かれた時には毎回キスをしながら中をつかれる。
「ぁあっ、あっ……、んっ」
「かわいい、省吾」
口を離され、至近距離でささやかれる。そのまま耳たぶを甘噛みされた。
「かわいい、かわいい。奥、ついた時震えるところ、すっげぇかわいい」
ミロにささやかれる度に頭の奥が幸せで溶けていく。何かに縋りつきたくて、省吾はミロの背中に手を伸ばした。
「好き、俺も好きっ、ミロのこと、せかいでいちばんすきっ」
「俺の事、好き? 蓮よりも?」
先ほど散々言ったのにまだ言わせたいのだろう。省吾は必死になって叫んでいた。
「好きっ。ミロの事が好き。ミロのほうが好き」
「俺も」
再び口づけられ、幸せでどうにかなってしまいそうだった。
「んっ……」
ぐ、とひときわ強くミロが腰を入れる。達したようで彼の体は震えていた。中に熱い飛沫を感じる。中で出されたのだろう。嬉しくて笑ってしまうと、ミロも微笑んだ。目と目があう。
なんて素敵な男なんだと蕩けた頭で思った。
そうして体位を数度変え、お互いが満足した頃にはすっかり東の空は白くなっていた。
登っていく太陽を見ながら思う。これからはミロにも、ノアにもジェドにも兵士の皆にも滅多に会えなくなるんだな、と。ミロと結ばれた事で欲が出てきたのだろうか。会えなくなることを寂しく思った。
それに、ノアやジェドの保護がない所で生きていけるかという不安もわずかではあるが存在する。
サイによって食事は確保されている。仕事も、サイが面倒を見てくれると言っていた。不安なんてないはずなのに、未知への恐怖が少しずつ省吾を蝕んでいく。
あと少しだけ、と省吾はミロの腕の中で体温を感じながら目を閉じた。
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