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第四章・十万年を暴いた男7

「ヨーゼフおじいちゃん、どこへ行ってたの?」 「おじいちゃん、一緒に遊ぼうよ!!」 「一緒に遊ぼー! おにごっこしたいです!」  子どもたちはヨーゼフをあっという間に囲みました。  どの子もとても嬉しそうにヨーゼフに甘えたり抱きついたり引っ張っていこうとしたり。子どもたちはヨーゼフが大好きなのですね。 「こらこら、今はお客様がいるんだ。また後で遊ぼうね」  ヨーゼフは子どもたちを宥めると申し訳なさそうに私を見ます。 「騒がしくて申し訳ありません。お客様の前でお恥ずかしい」 「いいえ、微笑ましいです。子どもたちはヨーゼフさんのことを慕っているのですね」 「この子たちのことは赤ん坊の頃から知っていますから」 「そうでしたか。私は子どもたちは研究者の方々の子どもたちだと思っていました」 「いいえ、この子たちは孤児ですよ。赤ん坊の頃にここに預けられてそのまま……。この遺跡の中に孤児院があるんです」 「ここに孤児院が。気づきませんでした」 「広い遺跡ですから。よかったら寄っていきますか? ここから近い場所にあるので」 「お誘いありがとうございます。でも急に訪ねたりしてご迷惑ではありませんか?」 「いいえ、むしろ子どもたちも喜びます」  ヨーゼフはそう言うと子どもたちを見ました。  子どもたちは「お客さまがくるの!? やったー!」「ようこそ! たくさん遊びにきて!」「こっちだよ! こっちこっち!」と口々に私とクロードを誘ってくれます。  嬉しいお誘いに私も頬を緩めました。 「では少しだけお邪魔させてください。よろしくお願いします」  迷子中ではありますが、遺跡内にあるという孤児院に興味を覚えました。  それは私が孤児出身だからかもしれませんね。早くハウストたちのところに戻らなくてはなりませんが少しだけ寄り道です。  こうして私とクロードは遺跡内にあるという孤児院へ寄っていくことになりました。  私とクロードの前をヨーゼフと子どもたちが案内しながら歩いています。  子どもたちは楽しそうにおしゃべりしたり、ヨーゼフの周りを駆けまわったり、とても賑やかですね。  私は手を繋いでいるクロードに話しかけます。 「クロード、楽しみですね。……クロード?」  私はクロードを見つめて、……首を傾げてしまう。クロードは不思議そうな顔で子どもたちを見ていたのです。 「クロード、どうしました?」 「……ううん、なにもないです」  クロードは首を横に振りました。  でも不思議そうな顔をしたままです。なにかあったのでしょうか。  そうこうしているうちに私たちは遺跡の奥に入っていきます。  細い通路を抜けた先には広場があって、そこには石造りの教会が建っていました。 「ここが孤児院です。遺跡内にあるので建物は古いですが、ここには一歳から十三歳までの三十名の子どもが暮らしています」 「三十名も。大変でしょう」 「はい。でも近隣の町や村からたくさんの人が手伝いに来てくれるんです。皆さん、子どもたちにとてもよくしてくれるんですよ。子どもたちもとても懐いています」  ヨーゼフはそう説明しながら私たちを教会に案内してくれます。 「さあどうぞ、入ってください」 「ふふふ、賑やかですね」  教会の中に入ると、子どもたちの明るい声が聞こえてきました。  それ以外にも子どもたちの世話をする大人の声も聞こえます。子どもたちの世話を手伝っているという方々なのでしょう。 「あらヨーゼフ様、おかえりなさい」 「ヨーゼフさま、おかえりなさい」  恰幅のよい女性が二歳くらいの幼女を抱っこして現われました。  幼女はヨーゼフを見ると笑顔になって「ヨーゼフさま、かえってきた!」と喜んでいます。  幼女を抱っこする女性は恭しくヨーゼフにお辞儀します。 「ヨーゼフ様、お疲れさまです。今日も子どもたちは元気ですよ。とてもいい子たちです」 「いつもありがとうございます。皆さんのおかげで子どもたちも幸せに暮らせています」 「とんでもありません。私たちにとっても子どもたちは尊い存在。大切に大切に育てなければいけませんから」  女性はそう言うと笑顔で私を振り返りました。 「こんにちは、ようこそ教会へ。ぜひ子どもたちに会っていってください。どの子もとても可愛らしい自慢の子どもたちです」 「子どもたちをとても可愛がっているのですね」 「もちろんです。この子たちを健やかに育てることが私たち人間の、いいえ、四界にいるすべての民の役目ですから」  女性はそう言うと、「子どもたちの食事の途中ですから」とお辞儀をして教会の奥に入っていきました。  ここの子どもたちはとても大切に育てられているのですね。  私はヨーゼフに案内されて食堂で食事をする子どもたちの姿を見せてもらいました。  テーブルにはたくさんのパン、具材たっぷりのスープ、サラダや魚、デザートのプリンまで並んでいました。  すごいです。一般的に孤児院は資金面で苦労していることが多いので、あまり見られない光景でした。

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