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昼下がりの空気を見事に崩してくれた息子に、音月は微笑う。
今まで、気づかなかったのが、可笑しいくらいだ。見た目は、女だが、声を聞けば解る。
青年期に訪れる変声期は一番、男と解かりやすいじゃないだろうか。
体格が、どうであれ、彼は『男』なのだ。世の男性達には申し訳無いと思うけど、水春は容姿が、女性なだけで、他は、男という象徴がくっきり出ている。
-…喉仏とか。
女には、喉仏は無い。
そう、考えれば、彼が、紛いなき男だと断言出来るだろう。
愬には、悪いが、世間の噂はあまり信じられたものではないのを、教えて上げた女性。
十年前に、姉の御子も、間一髪で、気付いたくらいだから、光皇帝の血筋の男性は、水春みたいなのが好みと言えば良いのか。
何とも、情けない話だ。
それに…。
「『暁野帝』の、総帥は、上手だからな」
息子には、聞こえない声音で、呟いた。
光王族の一つ『暁野帝』。
総帥は、己の美しさを理解している。
故に、血を引いている水春も己を解っているのだろう。前世が女で、有名になったくらいだ。
無論、己が秘める力も後に、解ってしまうのかも知れない。
解語(かいご)の花。
私ですら、そう、思うくらい、水春は。
美しい青年だよ…。
思わず、微笑みながら、音月は、息子の頭を撫でながら、遠くで掃除している彼を感心した。
「うぅっ、男とは、信じられないです…」
「正真正銘、水春は男だ。風呂に携わった者は、大抵、ショックを受けて、帰って来る」
些か、周りが期待を持っているせいもあったりする。
男湯に女が入る筈が無いという概念は、何処に消えたのかと、問いたくなった。
最早、呆れのオンパレードが、続く。これは、他の女神達が知ったら、嫉妬の嵐だろうと思った。
半ば、音月は、暇の潰し方を考えるのである。
再び、ちらりと、彼を見れば、此方の視線にも気付かず、賢明に、掃除をしていた。
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