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【水春side】
「で、どう思います?」
僕は、光皇殿の掃除をしながら、先程、来た上司に声を掛けた。
何故かと言うと、玉座から視線を感じていた三時間前、ふっと、視線を向けたら、音月様が、微笑んでいたのだ。
珍しい事もあると考えたが、何方かと言えば、静欄(せいら)様が、微笑む方が少ない気がした。
「どう思うと、言われても、音月様の場合は、天気が良い日は、そんな感じだと思う。それより、問題は、愬皇子の声が光皇城まで、響いた事だ…」
「すみません。愬皇子の声は、聞こえていませんでした」
「ソナタの耳は、良い事だけしか、聞かない耳だったな…」
否、そんな事は、無いと思う。
-…ただ、あの時は。
綺麗な桜が、舞っていた。
スーッと、吸い込まれる様な光景が、浮かんだ。
あれは、僕が『女』だった時の…。
『今年も、綺麗ね』
そんな科白が、脳裏に浮かんだ。
まるで、過去から呼び醒まされている様な感覚に襲われていて。
「…」
「水春…」
「あ、すみません。紅月様」
「其処は、叔父貴でも良い気がするんだがな。事実…ソナタは、紅奈の孫だし、俺の甥っ子にあたる訳だし…。もう少し、頼っても良いんだけど、無理だよな…」
「あはは」
どうも、苦手だ。
僕の家系は、西の神子『皇華帝』に仕えている。
よって、龍神の家系の血を引いていても、やはり、遠慮してしまう。仕事上は、上司だと自覚しているせいだろうか。
それとも、祖父の威厳さが欠けているせいだろうか。
なんて考えが浮かんだが、元から、距離を取っている僕自身の問題だった。
それからは、慣れない事は、少し置いている気がする。
無論、紅月様の言葉は嬉しいが。
親族だから、余計かな。
「無理して笑う癖は、父親似か?」
「ふぁぶっ…いた…です」
両頬を引っ張られた。
思いっ切り。
酷いです、紅月様。
僕の虚しい訴えは伝わず、空へ、消えていく。
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