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何時だったかな。 こんな風に、引っ張られた日があった様な。 だけど、一度も、抵抗出来ずに、相手を、睨み付けたっけ。 『良い気にならないで…』 という科白が、吐かれた瞬間、彼は、酷く。 傷付いた顔をしていた。 あの時、何て言葉を掛けて良いか解らなかった“私”は、距離を置く事を決める。 良き妻とは? 貴方が、求める“私”は。 「そいゆう顔をするな、水春」 「えっ…」 「苦しそうな表情は、ソナタには似合わないぞ」 「…っ」 可笑しい。 そう、桜が、思い出させている感じがするんだ。 過去の僕を…。 紅月様は、優しく、頭を撫でてくれた。 「あまり深く考えるな。まだ、子供のままでいろ」 嬉しいけど。 無理な話だ…。 母みたく、立派な総帥にならないといけない。 その為なら、暁野帝の地位すらも利用する。 これは、僕に課せられた運命なのだと、自負しているからこそ、甘えは、身を滅ぼす。 強く、立派で、利口な総帥…。 それが、僕の未来なのだろう? 『-…何故、そう思うんですか…?』 暁野帝は…。 由緒正しき、賢明な人材を育てる家系。 『だから、天命を末梢出来ないのだと…気付かないのか…』 何処からともなく、聞こえてくる声音。 『何時か、気付く日が…』 人に厳しく、自分に厳しい姿が、見えた気がした。 「解りましたから、頭が、禿げます…」 「…解れば良いんだ」 もう、折角のスタイルが、台無しだ。 今日は、ふんわりヘアーにしたのに…。 「しかし、紅月様、あの桜は…」 「あぁ、あれは…聖月様のお母様が、植えた桜らしい。何でも、前世の自分が見えるという噂の桜だ」 「へぇ…」 「夜になると、美しいぞ。桜の精が舞ってくれる。そういや」 凄く、興味唆られる話だった。 紅月様は、何かを思い出した様に、言葉を止める。 後から出たのは『いや』と言い、去って行った。

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